飛ぶために進化した鳥達(前編):飛び方・体・翼に至るまで、飛行を追い続けた生物

鳥が空を飛ぶ原理を応用して飛行機の翼が作られたのは有名な話です。しかし、この記事では航空力学で扱うような揚力の原理やベルヌーイの定理などには触れず、空を飛ぶ鳥達の様々な工夫について取り上げてみたいと思います。

鳥は空を飛ぶことで外敵に対して圧倒的な優位に立ち、古くからの生存競争に勝ち残ってきた優秀な種族です。地球上で最も繁栄している人類ですら、空を飛ぶことに憧れ、制限はあるものの比較的自由に飛べるようになったのはここ百年の話。

彼ら鳥に比べれば、人類の空を飛ぶ技術と言うのはまだまだ及びのつかない世界といえます。何万年と空を飛び続けた鳥達の飛ぶ目的や飛ぶ環境に合わせた飛行における工夫とは、一体どのようなものがあるのでしょうか?

前編では、羽ばたきの理由や飛行に特化した体や羽根の特徴について触れていきます。

鳥が羽ばたく理由

揚力の原理などを知らないと、鳥が羽ばたくのは空気を押し下げることで上に上がろうとしているからだと考えがちです。しかし、鳥が飛び立つ場面を見ていると分かるのですが、鳥が羽ばたきながらヘリコプターの様に垂直に上昇するなどということはありません。翼は基本的には上下させるものなので、空気を下に押し下げて反動を得ると言う目的だと非常にロスが大きいのです。

ハチドリや一部の昆虫の様にホバリング飛行を得意とするものは普通の鳥とは違った独特な羽ばたき方をしていますが、鳥が羽ばたく本当の理由は「前に進むため」です。飛行機のプロペラやエンジンと同じで、前に進みながら翼に風を受けることで上向きの力である揚力を発生させながら、飛行しているのです。前に進むことは、揚力を発生させ上昇することに繋がるので、「上昇するため」と言い換える事もできますが、厳密には羽ばたきによって得られる効果は前進だけです。

細かな揚力の働き(外部リンク)についてはここでは触れませんが、基本的には下図の様に翼の正面に風が当たると翼に対して上向きの力が発生すると理解していただけれ問題ありません。

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鳥によっては足を使って助走することもありますが、前に進むために羽ばたく場合、翼を下ろす時にも上げるときにも前に進む力を発生させることが出来ます。そのため動きに無駄がなく、前に進むことで受ける風で徐々に空に飛び上がるための力が増えていきます。その際、翼の向きは逆になります。手を斜めにして水を掻くイメージが近いかもしれません。肘を伸ばす時と曲げる時で手の向きを変えれば、常に同じ方向に水の抵抗を受けるようになります。

この「前に進む力」を真上に向ければ垂直に飛べそうな気もしますが、殆どの鳥は自分の重さを越えるエネルギーを羽ばたきのみで生み出すことは出来ません。飛行機でも、一部の高性能戦闘機を除いて、エンジンの力だけで上昇することは出来ず、風によって生み出される揚力を利用しているのです。

ちなみに、細かな翼の部位ごとの細かな役割分担(外部リンク)に関してですが、実際に大きく動いているのは翼の先端部分だけで、付け根の部分はあまり動かさずに揚力の発生だけに専念しています。さらに 、低速時に揚力を発生させやすくする部位なども存在し、これは高速飛行時には閉じて邪魔にならないようにする機能もついています。この機能は飛行機などでも再現(フラップ)されており、鳥の翼が如何に優れているかが分かりますね。

軽量化された体と重心を考慮した姿

鳥の骨といえば鶏が出てくるかも知れませんが、思いの外軽いと感じたことはないでしょうか?

というのも、鳥の骨は地上に済む動物を比べるとかなり軽量化されています。それは飛べない鶏も同じで、中空で非常に薄くなっています。少しの衝撃で簡単に折れてしまいますが、身体が軽く、負担が少ないので問題が無いのです。その中空で軽い鳥の骨の性質を活かして、骨(羽根)の中にインクを染み込ませてペンとして使っていたこともありました。

(上:鳥の骨、下:人間の骨)

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上図を見ると明らかですが、人の骨はかなり分厚くなっており、生半可な衝撃では折れそうにありません。しかし、鳥の骨はかなり華奢で軽そうな印象を受けます。実際、人間の体重の2割が骨の重さであるのに対して、鳥の骨は全体の僅か5%程度の重さしかありません。

地上で歩き回る必要がなく骨に大きな負担の掛かることの少ない鳥は、可能な限り骨の重量を軽くし、その分飛ぶための筋肉を付け、明らかに飛行に特化した体の構造を持った生物であると言えます。