飛べなくなった鳥達(2):地上で生きる術を見つけた鳥(ダチョウ、キーウィ、ニワトリなど)

前回、飛べなくなった鳥達に共通する特徴についてご説明しましたが、今回はその中でも地上で生きることを決めた鳥達についてご説明します。

世界一走るのが早い鳥、ダチョウ。
小型で素早く、ニュージーランドの国鳥とされるキーウィ。
家畜化され、世界で最も人に飼育されているニワトリ。

彼らはどのようにして飛ばなくなり、地上で生きるようになったのでしょうか?

前回:「飛べなくなった鳥達(1):大地や水と共に生きる選択、得たものと失ったもの

ダチョウ―世界最速の鳥

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 ダチョウは世界で最も足の速い鳥であり、世界で最大の鳥(絶滅種ではモア類が最大)です。

身体に合わせ、比較的大きな翼を持つが飛ぶことは全く出来ません。重量は平均130kg前後で、飛行機に比べるとまだ軽いものの飛ぶには飛行機並みに大きな翼とそれに応じた推力が要ります。羽根は飛ぶように出来ていないので、翼を使うのは走っている際の方向転換の時だけです。

そんなダチョウは走ることに特化した典型的な走鳥類であり、時速70kmほどのスピードで走る事ができます。飛行を完全に捨てているため、胸筋は全くありません。翼は走りながら方向転換する際に使い、右に行きたければ右の翼を開き、左に行きたければ左の翼を開きます。これは、空気を翼にぶつけて身体の向きを変える効果と、重心の位置を若干ずらす効果があり、ダチョウは非常に巧みに方向転換に翼を使っているといえますね。

非常に身体が大きく、足の指に当たる部分は二本だけしかありません。そして、ウマなどの有蹄類の様に(ウマなどは踵部分が地面につかない)、ほぼ全ての体重を一本の指に掛けながら走っています。

ダチョウの卵は世界最大の卵と言われていますが、その身体の大きさを走力を見る限り、地上における鳥類の進化の一端をよく表しているといえますね。

キーウィ―翼を捨てた鳥

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キウイフルーツ似ているため、キーウイと呼ばれる鳥です。ニュージランドのみに生息し、ニュージーランドの国鳥にも指定されています。

これもダチョウなどと同じく走鳥類に分類され、身体の割にはかなりのスピードで走ることが出来ますが、翼は全くありません。人間の尾てい骨ではありませんが、翼のなごりとも言える小さな骨は残っています。キーウイは、飛ぶことを諦めただけではなく、翼を完全に捨てた独特な鳥であるといえます。

長いくちばしを使って地中の虫などを食べますが、鳥類にはかなり珍しいことに視力が非常に悪く、匂いや嘴の先の付いたひげを触覚の様に使い餌を探します。夜行性であるというのも一つの特徴ですが、その生態はもはや鳥と言うよりアリクイのような別の哺乳類の一種に近いのかも知れません。

鳥としての特徴が、足の形と長い嘴しか残っておらず、ある意味完全に鳥を止めた鳥であるといえるかもしれません。

ニワトリ―家禽として繁栄した鳥

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 皆さんご存知のニワトリも、飛べなくなった鳥の一つの典型例です。

飛べなくなったと言うのは正確ではなく、多少は飛ぶことが出来ます。飼われている鳥は栄養過多で重く、数メートルしか飛べませんが、野鶏などは数十メート飛行することは可能です。しかし、その程度の飛行では、もはやモモンガやムササビ並の飛行であり、鳥として空を飛べると言うことは出来ません。

ニワトリは分類としては、鴨類に近い分類がなされます。しかし、水の上を泳ぐことは出来ず、どちらかというと走鳥類など足の速さで天敵から逃げる種に近いでしょう。仮に広い草原でニワトリを人間が捕まえようと思ったら、足が速く多少は飛べる(一種の大ジャンプ)ニワトリを捕まえるのは至難の業です。

食用として知られるニワトリですが、ニワトリほど食用に適した鳥はいません。

というのも、空を飛ぶ鳥は軽く小さいですが、翼を動かすための大きな胸筋が付いています。そのため、空を飛ぶ鳥を食べる場合は胸筋だけになります。一方で、走鳥類は足などが中心に発達し、腿肉などが美味しい鳥になります。しかし、ニワトリは重い体を飛ばせるだけの胸筋があり、速く走れるだけの脚部の筋力がある。ニワトリだけに言えることではありませんが、鴨類は胸肉も腿肉もしっかり食べられる種類が多いです。

ニワトリは人類の歴史の中でもかなり早い段階で家畜化されており、卵も肉も食用とされ、ペットにもなるという、生活の中でも非常に重宝される鳥です。ある意味、飛ばなくなった事で人の生活域に入ることに成功し、人を利用することで(家畜であるため数は多い)発展した鳥だと言えます。

地上を選んだ鳥の多くが絶滅

地上で生活することを選んだ鳥達の一部を紹介しましたが、実は人が生活を広げ始めて以来、その殆どが人間による乱獲が原因で絶滅してしまいました。

実のところ、飛ばなくなった鳥達は、まだ飛べた頃に空を飛ぶことで天敵のいない世界を見つけ出し、天敵のいない世界で悠々自適に暮らし、そうしている間に飛ぶことを忘れてしまった鳥だったと言う事も出来るのです。

飛ぶ能力は、非常に犠牲が多い能力です。厳しい体重制限をクリアし、翼を動かすための筋肉を胸に蓄え、適宜羽根を生え変わらせ、その体の大きさや環境に合わせた飛行方法を修得する必要があります。ある意味、飛ぶ鳥たちにはアスリート様なストイックな生活を強いられていると言えます。

もし、飛ぶことで楽園を見つけられたのであれば、鳥達はきっと飛ばなくなるでしょう。今のニワトリたちも、家畜として生きるようになってからどんどん飛べなっています。

家畜としての生活が楽園だと言えるかどうかは難しいところですが、自然の世界は人間に飼われる生活より遥かに過酷です。

雀の寿命は一年未満と言われています。これは、その間に自然の中で死んでしまうからです。しかし、人に飼われて飛ぶ必要のない楽園で暮らせれば、雀も15年程生きることが出来るそうです。飛べる鳥でさえ、天敵(更に大きな鳥)の多い自然の中で生きていくのは非常に難しいのです。

そんな自然の中で、飛ばなくても行きていける世界はまさに楽園と言えるでしょう。その世界に、世界最強の捕食者である人間が現れれば、飛べない鳥はひとたまりもありません。

地上を選んだ鳥達で、今も生き残っている鳥達は本当に選びぬかれた鳥達か、本当に幸運だった鳥達だったかのどちらかだったといえるでしょう。

 

飛べなくなった鳥達(3):水と共に生きる鳥(ペンギン、ガチョウ、フナガモ、など)

【シリーズ一覧:飛ぶ鳥、飛べない鳥】