西アフリカでは相変わらずエボラ出血熱が猛威を振るっている。
被害は一万人を越え、留まる様子もなく、西アフリカの三国は壊滅的な被害になっている。ワクチンの開発は進んでいるが、まだ完成しておらず、量産体制も整っていない。そんな状況で、エボラの流行を止める鍵は感染者の早期発見と隔離にある。
確実に感染者を隔離するために、米軍などが現地入りして現地の治安部隊に対する教育を進めているが、早期発見の方はまだ課題が残っていた。そこで、米国のCorgenix社とドイツのSenova社が名乗りを挙げ、簡便な検査キットを開発した。
従来のエボラウイルスの検査方法
今までのエボラウイルスの検査方法は、注射器を使って採血し、その血液の中に含まれているエボラウイルスをPCR法によって増やしてから分子検査によって確定させていた。
角度は高いのだが、針でブスリと差す上に感染リスクのある血液を運んで下のようなPCR検査装置に入れて、検査にかけてエボラウイルスの有無を調べる必要があった。この作業には、採取した血液を安全に扱える環境が必要で、注射針の扱いも非常に慎重にならなくてはいけない。そのため、ある最低限の設備が必要になる。
[PCR検査装置―従来の危機]
インフラの普及していない西アフリカでは、ラジオやテレビ、電話などを使って検査会場に集ってくれと呼びかけをすることが出来ない。そのため、医療関係者が村を訪れて採血して回らなけれいけなかった。
採血した血液を厳重に梱包し、まともな道路すら無い道を揺れる車で移動して検査できる環境に持っていかなければならない。検査自体は数時間で済むのだが、それが遠隔地にしかない場合は、感染者から血液を採取して、隔離するまでに一週間以上は掛かることもザラだ。
場合によっては、そんなに時間が掛かったら潜伏期間を終えて発症してしまい、感染が広がっている可能性が極めて高い。そうなれば、最初の検査時に問題が無くても再検査が必要で、その時点で村ごと、もしくは家族ごと隔離しなければいけなくなる。血を抜かれて、病気があるからと家族や村ごと隔離されるという話では、当然村側の抵抗も大きくなり、隔離自体の障害が大きくなってしまう。
新たなエボラウイルス検査法
そこで生まれたのが、新たなエボラウイルスの検査キットだ。
上図は、Senova社の検査キットで、非常に小型の使い捨てキット。
使い方は、指先に小さな針を挿して、少量の血液を試験器に垂らして暫く待つだけ。そうすると、妊娠検査薬の様に黒い線が二本出てきて感染を示してくれる。針は使うものの本当に小さな針で良く、使用時のみ突き出すタイプの安全針を使うことも出来る。
欠点といえば検査の確度だ。通常の検査方式であれば、10か20個のウイルスがいればそれを増やして存在を確認することができるが、この検査方法だと、感染の極初期の段階では発見できない。それでも、この簡便な検査方法と非常に小型な検査キットはエボラウイルスの検査に対して非常に高い効果を発揮する。
様々な場所での迅速な検査が可能
まず、村や遠征地での検査が容易になる。
大きな注射器を取り出す必要は無く、小さな針で挿して僅かな血液を使って殆どその場で結果を見られる。検査結果が正確ではないとは言っても、例えば村人全員に検査をして一人も陽性が出なければ、高確率でその村には感染が広がっていないと判断できる。
もし、一人でも陽性が出た場合、PCR方式での検査を他の村人にも実施すれば確実だ。
空港などでの検査も簡単になる。
空気感染はしないとは言え、西アフリカに一度でも訪れた渡航者には検査が必要だ。その際に、採血して数時間待ってくれと言われたら、人によってはそれを避けるために、西アフリカ以外の検査の緩い空港から本国に向かって検査を逃れようとするかも知れない。西アフリカに訪れた事を隠すことができれば、注射による検査を避ける事が出来るのだ。
非常に危険なことだが、自分だけは大丈夫だと思っている人は多い。検査が小さな針で指先を一瞬差すだけで、すぐに終わると言われれば、検査に対しても協力的になるかもしれない。さらに、これだけ小さなキットであれば、空港の大小に関わらず使用でき、訓練を受けた専門家でなくてもすぐに使える。
PCR方式での検査が出来るようになるための訓練には、1・2週間は必要だが、新たな検査キットを使えば数日で使えるようになる。せいぜい針や血液の扱いを徹底する事位だ。
まだ実用試験テストの段階だが、結果が良好であればすぐに量産されて現地に送られることだろう。
エボラ出血熱の抑制に繋がってくれれば嬉しい限り。