産休は労働基準法で定められている権利なので、労働者側はしっかりと主張しても良いはずだ。しかし、長期間休むのが気まずいなどの理由で、実際に産休を取る女性は少ない。むしろ、妊娠した女性の半数以上が退職しているのが現状だ。
事例3:妊娠を理由にした配置変更の拒否・妨害
厄介なケースが、配置変更に関するマタハラだ。
労働基準法では、妊娠した女性が希望した場合には、妊婦でも出来る仕事に業務を変更しなければならないと定められている。しかし、妊婦でも出来る仕事がないと言うケースも当然存在し、配置変更が出来ないと突っぱねるケースも多い。
その場合は、産休や休業で業務から遠ざかる(休業手当などは出さなくても良い)結果になるため、泣く泣く働き続けると言うケースが多い。
例えば、
「今から配置を変えてもすぐに出来る仕事はない」
「他の業務は人数が間に合っていて、配置を変えても結局仕事はない」
実際に配置変更を受け入れる余地があったのかどうかは、非常に難しい争点となるため、はっきりマタハラだという事は難しい。
しかし、従業員の多くが十分に配置変更も可能で、妊婦にでも出来る仕事があると認識している状態であれば、それはマタハラであるということが出来るはずだ。
事例4:妊娠による降格
降格は一種の配置変更と言うことが出来る上、明確な不利益がない限りは労働基準法の違反と言えない。しかし、男女雇用機会均等法における女性差別に当たる可能性が高く、最高裁の判例でも違法と言う判決が出ている。
違法と判定されたケースでは、管理職だった職員が平社員に降格となって管理職の手当なども支給されなくなり、産後も管理職に戻ることがなかったため、明らかに出産によって不利益を被ったと判断された。裁判では病院側に不利益を避けられる余裕があったかどうかを問われ、一審・二審では病院側が勝訴し、最高裁で女性が逆転勝訴した。
一般的には管理職は激務であり、長期間休める業務ではない。そのため、妊娠時に一時的に降格される事は十分あり得ることで、新しく管理職になった社員を再び平社員に戻すのも難しいとして、雇用者側の権利の一部であるとされてきた。
しかし、こういう場合でも雇用者側が必要な処置を取れば産後に元の職に復帰させることは出来るはずで、女性の権利が新たに保証された事になる。
マタハラは子供の命と女性の生活に直結する
妊娠とは、新たな命を生む行為。
働く女性が増え、少子化で子供が少なくなってきた中で、妊婦と言うのは最大限の配慮を持って守れられるべき存在だ。
それを蔑ろにするべきではないし、かと言って妊娠中は何もするなと言うのも暴論だ。
妊娠中の大部分はある程度は普通の生活を送ることが出来るし、出来なくてはいけない。夫の収入が十分であれば仕事から離れても問題ないが、そうでない場合は当然女性側も働いて収入を得なければならない。むしろ子供が生まれてからは更にお金が必要になるということもあり、妊娠を理由に仕事を全く辞めてしまうと言う判断は非常に難しい判断になるだろう。
加えて、子供ができたら女性は自分の人生の全てを子供捧げなければならないというのも暴論であり、女性自身の人生も尊重されるべきだ。
育児や家事がとんでもない激務だった時代とは違って、今の世の中には育児サービスや技術の進んだ家電などが存在し、昔とは違って大幅に負担が軽くなっている。それでも妊娠や育児は無視できない負担であるのは確かだが、女性が自分の人生を捨てなければ子供を育てられないと言う時代ではない。
男性と女性が対等な立場で仕事が出来る環境は、技術的・制度的基板の上で作られつつある。
後は、人の精神的な部分や、文化的な部分で変わっていくだけだ。
【その2へ続く】