答えはシンプルで、胃の内壁で胃酸を中和しているからなのです。別に胃の内壁が銀で出来るからというわけではなく、胃を覆う粘膜にはアルカリ性を示す炭酸水素ナトリウムが含まれており、胃酸と混ざると中性になります。
ここでふと疑問に思うのが、胃液は胃の内壁から分泌されているのに何故酸性でいられるのかということ。
粘膜を保護する粘液は唾液の項目で説明した様に非常に粘性が高い。もし粘性が低く、胃液とすぐに混ざってしまうようであれば、胃液も中和されてしまうが、粘膜部分にアルカリ性の保護成分が留まるため、胃壁は中和状態で保持される。、これが胃液に混ざったり、胃液と一緒に排出されてしまった場合には新しくアルカリ性の保護成分が分泌されるため、流出してしまっても問題はない。
さらに、中和が間に合わずに溶けてしまっても、胃壁の細胞は他の体細胞に比べて修復が早く、多少溶かされたぐらいでは問題にならない。ただ、ストレスや細菌の影響で胃壁の中和力が落ちたり、胃液が過剰に分泌されると、胃壁が傷ついて胃潰瘍になることもあります。
胃壁の機能はそれだけではなく、前ページの図にあるように凸凹のヒダがついていて胃壁のヒダで食べ物をすり潰す効果もあります。
ちなみに、胃液を中和する能力を持っているのは胃壁だけではなく、細菌の中にも胃壁を中和する能力を持つものがあり、「ピロリ菌」などがその代表格で、胃液の中でも普通に生存出来てしまいます。
胃の中で3時間、内部で起きている事
胃酸も消化酵素も強力ですし、胃の運動でどんどん食品の分解は進みますが、それは数分で出来る事ではありません。
まず、粥の様なゲル状の食物でもない限り、固形物の中まで胃液が染み込みません。咀嚼程度では食べ物がしっかりとした液状になることはなく、あくまで溶かしやすくしたと言う程度です。もし水分だけなら胃液と混ぜて数十分消毒した後に腸へ流し込まれますが、固形の食物は2-3時間ほど胃の中に保持されます。
ちなみに、アルコールやカフェインなどは胃に入った時点で吸収が始まり、血液中に浸透しますので遥かに効果は早いです。アルコールを摂取したらすぐに酔うのも、胃で吸収されているからこそと言えます。しかし、胃で吸収されるのは僅か2割程度ですので、胃を通りすぎて腸に入り込んだ時点でさらに吸収が進みます。
胃の中に食物が保持されている状態でじわじわと殺菌消毒が行われますが、胃酸がいくら強力でも大量の食物や水分で効果は薄まっています。沢山食べればその分沢山胃酸は出ますが、酸性度が薄まるのは避けられず、胃酸そのものの酸性度より低くなっています。
腐敗した食べ物やウイルスの混入した食べ物でお腹を壊したり病気になったりするのはこのためで、少量であれば殺菌されてしまうところが、薄まった胃液の中であまりにも細菌類が多すぎ、殺菌しきれずに体内入り込んだ結果病気になるのです。
ただ、細菌やウイルスの中にはピロリ菌の様に酸性を中和したり、赤痢菌の様にそもそも酸性に強いウイルスなどもいるので、少しでも摂取したら胃酸では殺せない。ということも、十分に起こりえます。
一定時間胃で消化された食物は、胃の出口にあたる幽門の括約筋を緩めることで十二指腸へと放出されます。括約筋と言うと肛門をイメージしますが、筋肉が円形に配置され、管などを締めたり緩めたりする弁として作用するものをそう呼びます。
胃ですべてが消化されるわけではない
胃といえば消化。そんな風に思われがちですが、胃で消化活動がすべて終わるわけではありません。むしろ、胃を通り越してからが本格的な消化・吸収の始まりです。
三大栄養素である炭水化物・タンパク質・脂質らの消化は胃を過ぎた時点では、まだ半分程度が終わった程度です。無論、胃液の力で既に食べ物はゲル状になっており、腸内で消化吸収を行うために最適な状態になっています。
そこで、胃でゲル状になった食物は十二指腸へと進むのです。
【消化器官のしくみ(5):十二指腸と膵液】