糖質と炭水化物:生体エネルギーを生む過程-消化と栄養(2)

栄養素がどのように人に使われているかを理解する上で、最も重要なのが「糖質」と「炭水化物」です。

「え?同じじゃないの?」と思うかもしれませんが、実は似ているようで結構違いますし、「糖」と「糖質」と「炭水化物」が混同して用いられていることもよくあります。

そこで、本記事では「糖」と「炭水化物」の違いや役割について、誰にでも分かるように簡単にご説明していきたいと思います。

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糖と糖質と炭水化物の違い

最初に結論から言いますと、糖は化合物の名称、糖質は糖を栄養学的に使う場合の名称、炭水化物は糖の集合体です。しかし、これだけでは細かな話が分かりませんので、詳しく説明していきます。

まず、「糖」と言うのは「砂糖」のことではありません。砂糖も含まれるのですが、もっと言うと。そして、最も重要なのが生物のエネルギー源と言う意味での「糖」です。

アリがせっせと砂糖を運ぶように、人も糖をせっせと口に運びます。

化学的にはアルデヒド基(-CHO)やケトン基(-C=O)を持つ物質として分類されますが、普通の人が覚えておきたいのは、「糖」は生体内で分解や合成がし易い便利なアイテムだということです。

糖質

「糖質」と「糖」ではどんな違いがあるのかというと、厳密には大きな違いはありません。ただ、「糖質」と言う単語は「栄養学」の分野で用いられることが多く、糖質と言われたら「栄養の話なんだな」と理解すれば良いでしょう。

しかし、かなりのケースで、糖質と炭水化物が同一のものとして扱われています。こう言った「糖質」を「炭水化物」の意味で使っている場合では糖と炭水化物は別物になります

炭水化物

「炭水化物」は、「糖」の集合体を意味します。当然、炭水化物を分解すれば「糖」になるため、炭水化物は糖と似たような性質を持つ物質と考え、「糖質」と呼んでしまうこともあります。

しかし、糖質と炭水化物は厳密には別物で、食品に含まれる炭水化物を分解しようとした場合には糖にできない食物繊維などが残ることもあり、食品パッケージに記載される「栄養表示」などでは、「炭水化物=糖質+食物繊維」であると認識されています。

こうしてみると、糖質と炭水化物が混同されているせいでかなりややこしいのですが、ざっくばらんに
「糖」≦「糖質」≦「炭水化物」
だと思ってください。

これを見るとわかりますが、用語の使い方次第では、糖と炭水化物が同じものとして扱われてしまうこともあるのです。

本記事では、より厳密な使い方である、「糖=糖質<炭水化物」として扱わせて頂きますので、予めご了承下さい。

糖(糖質)がエネルギーになる理由

さて、糖と言うのは生体にとっては極めて扱いやすい物質であり、且つ容易に手に入りやすい物質でもあります。ですが、どのようにしてエネルギーになるのでしょうか?

それには、まずエネルギーとは何かついて考えなければなりません。エネルギーと言うのは、使われる分野によって別の物を指します。時には、「運動エネルギー」であったり、「熱エネルギー」だったり、「電気エネルギー」だったりするのですが、人体で言うエネルギーを指す場合、それは「生体エネルギー」の事です。

この生体エネルギーを神経細胞や筋肉細胞が活用することで、神経細胞が情報伝達に使う「電気エネルギー」に変換していたり、筋肉が体を動かす「運動エネルギー」に変わっています。また、体温を一定に保つために「熱エネルギー」を生み出しているのも、この「生体エネルギー」を細胞が使っているからなのです。

そして、この生体エネルギーと言うのは、化学的には「ATP(アデノシン三リン酸)」を意味し、これが沢山ある場合は「高エネルギー」状態で、少ない場合は「低エネルギー」状態であると言えます。

この生体エネルギー(ATP)を作る方法はたくさんありますが、最も効率的、且つ大量に作れるのが糖を活用する事なのです。

糖を活用して生体エネルギーを取り出すと一口に言っても、酸素を使わない方法と酸素を使う方法が存在しますが、一般に酸素を使う方が糖から大量のエネルギーを取り出せます。殆どの生物が無酸素・有酸素双方の方法で糖からエネルギーを取り出していますが、無酸素で合成される微量のエネルギーだけで生活できるのは一部の微生物ぐらいです。

つまり、人を含めて、少なくとも「呼吸をしている生物」の大半が、酸素を使った方法で糖からエネルギーを取り出していると言えるでしょう。

また、あらゆる細胞にミトコンドリアが寄生しているのは有名ですが、酸素を使ったエネルギー生成では、実質的にはミトコンドリアが酸素と糖から合成された物質を使ってエネルギー(ATP)を作っているのです。このことからも、ミトコンドリアが如何に生物にとって重要な存在かを理解できますね。