機雷掃海艦艇の構造、機雷に見つからない木造やプラスチック製の船
ワイヤーを使って機雷を切断するにも、囮を使って機雷を切断するにも、その装置を使う艦艇が必要です。
普通に考えれば、掃海艦艇は機雷があると思しき場所で作戦を行うので、これらの掃海艦艇は極めて危険な状況で活動する事になります。囮を使う分にはヘリコプターなどが使えますが、使える装備には限界があるので、能力としては限定的。主力はあくまで掃海艦艇になります。
係維掃海も感応掃海も、カッター付きのワイヤーや囮を(一部の無人機タイプの囮を除いて)「掃海艦艇が引っ張って」使います。つまり、掃海艦艇がカッターや囮の前を進むのです。これでは、普通に掃海艦艇が先に機雷に引っかかるのではないかと心配になります。
しかし、実は掃海艦艇と言うのは、普通の艦艇と比べると遥かに機雷に見つかりにくい構造になっています。
磁気に反応する感応機雷が登場して以来、掃海艦艇はほとんどすべてが「木造艦」になりました。必然的に小型の船舶になりますが、大きければ大きいほど機雷に接触する可能性が高まるので、掃海艦艇は小型であることが基本です。さらに、エンジンなどにも静音の工夫が施され、発生する音も最小限に抑えられる様になっている艦。それが機雷掃海艦艇なのです。
近代的なものだとプラスチック製になっていますが、音が木造船より漏れやすいのが欠点です。木造船は木の継ぎ目で振動が吸収されるため、エンジンの振動が海に伝わりにくくなっています。しかし、プラスチックにはそれがありません。製造コストが安くて寿命は長いですが、静音には特殊な技術が必要となります。
ぶつかって爆発する接触型は上述の構造では回避できませんが、比較的小型の掃海艦艇がぶつかってしまうような接触型機雷は海面のすれすれに設置してあるため、機雷の探知装置で発見・回避が可能です。
つまり、機雷掃海艦艇は機雷が沢山ある海域で、自身が触雷(機雷を作動させる)することを避けながら、機雷掃海を行っているのです。小型なので機雷を食らったら一撃で致命的なダメージになるので、かなり危険な作業といえます。
機雷掃海隊群の装備と任務
海自は、世界でも有数(トップクラス)の機雷掃海能力を有しています。
自衛隊の機雷掃海部隊は機雷掃海隊群と呼ばれ、以下の様な艦艇を備えています。
(機雷掃海母艦うらが―JMSDF Gallery)
「うらが」は機雷戦専用艦としては世界最大クラスであり、機雷を敷設する能力もあります。巨大な金属製であり、機雷掃海を自身で行うのは危険なので主にヘリコプターを運用して広い範囲で掃海活動を行います。常に他の掃海艦艇と共に行動し、他の掃海艦艇に補給などを行うことで、小型の掃海艇が遠洋で活動できるように支援することが可能です。
(機雷掃海艦やえやま―JMSDF Gallery)
「やえやま」は木造の掃海艦で、木造としては最大級の軍艦。大型の掃海装備を搭載し、深深度に設置された機雷などを掃海することが出来ます。海上船舶のための機雷掃海というよりは、機雷を避けにくい潜水艦のための機雷掃海が主な任務。
(機雷掃海艇すがしま―JMSDF Gallery)
「すがしま」は機雷掃海の主力を担う掃海艇。ワイヤーや囮を使う掃海能力だけではなく、探知して破壊する掃討能力も強化された汎用型木造艦。あらゆる海域や任務に対応できる高性能艦で、海自が有する掃海艇の中で数も最も多い。
このように、様々な種類の艦艇を用途に応じて使い分け、あらゆる機雷戦に対応できるのは世界を探しても海上自衛隊ぐらいでしょう。なぜここまで海自の掃海能力が高くなっているのかについては別の機会にご説明しますが、艦艇・練度共に米海軍より優れていると言う評価もあり、まさに世界一の掃海部隊と言えるでしょう。
機雷掃海・掃討作業は、はっきり言って練度が低かったり、運が悪ければ触雷して掃海艦艇が沈む可能性も十分にあります。それでも、機雷を除去しなければ船が安全に航行出来ません。
危険であっても、平時であっても、必ず誰かがやらねばならず、それらの任務を背負っているのが海上自衛隊の機雷掃海隊群なのです。