いずも型護衛艦の性能と任務(前編):対潜ヘリ母艦とは何か?高い輸送力を持つ海自最大の護衛艦

いずも型護衛艦1番艦「いずも」が、2015年3月25日に竣工しました。海自最大の護衛艦であり、多数のヘリコプターを搭載可能です。

いずれ日本の護衛艦隊に組み込まれ、対潜任務の中核を成す護衛艦と期待されていますが、国内外で「あれは空母じゃないのか?」と話題になっています。平和憲法を有する日本が、他国を攻撃するための空母などもってはいけない。そんな中で、空母を作ったとしたら大きな批判対象となるでしょう。

しかし、いずも型護衛艦はいくつかの点で明確に空母とは違う点があるのです。いずも型の任務や性能についてご説明しながら、簡単に解説していきましょう。

関連記事
海上艦艇の艦種とその任務、護衛艦隊の存在意義とは?
そうりゅう型潜水艦の性能と任務
対艦・対地・対空装備、海で最強の潜水艦

いずも型護衛艦が進水、その能力は?

1503281
(いずも型護衛艦_JMSDF)

この見るからに空母っぽいシルエットの「いずも」ですが、搭載するのはヘリコプターだけです。

搭載可能ヘリ数は14機で、500名前後の陸戦部隊や50台近い車両を搭載可能。さらに、護衛艦隊全体に供給できるほど大量の燃料と水を積載出来ます。また、自動車の乗り降りに使う「ランプ」も搭載(RO-RO機能)していて、車をいちいちクレーンなどを使わずに運び込んだり運び出したりする事ができます。フェリーで見たことがあるあれですね。

これだけの輸送能力を持つ艦も自衛隊としては初めてですし、時速30ノット(55キロ)の高速で航行可能なのでイージス艦などの戦闘専門の艦の足を引っ張りません。ただし、戦闘能力は最小限で、ミサイルや航空機撃ち落とす対空自衛兵器と魚雷を迎撃する魚雷防護装置しか付いていません。護衛がいなければ戦闘不能です。

「でっかいんだからつければ良い」と思うかもしれませんが、はっきり言っていずもにとって戦闘能力は邪魔になるのです。

というのも、いずもは艦内に沢山のヘリや人員を積載しており、艦隊の中核をなす艦です。仮に戦闘能力があったとしても、護衛なしに動き回らせるわけにはいかず、必ずなんらかの強力な護衛艦が随伴する事になります。そして、ミサイルなどの兵器を扱うには徹底したメンテナンスが必須で、少しでも搭載した瞬間にメンテナンスのコストと人員が必要になるのです。

後ほど詳しく説明しますが、いずもの任務は「対潜哨戒」、「兵員と装備の輸送」、「艦隊指揮」、「災害派遣」。

これらの任務に攻撃能力は必要なく、不用意に仕事を増やして手間をかけるよりは、必要最小限の能力に留めておこうという意図があります。これによって、艦隊における「いずも」の立ち位置が分かりやすくなりました。

言ってみれば、いずもは部下(ヘリやイージス艦)に命令を出しながら、「戦場で武器も持たずに偉そうにふんぞり返っている指揮官」と言うところです。

聞こえが悪いですが、部下からすれば自分も武器をもって切り込む指揮官よりも、どっしり構えてくれた方が落ち着くでしょう。

対潜ヘリ母艦として、いずもの任務とは?

護衛艦いずもの任務は、主に上述の4つ。

 「対潜哨戒」「兵員と装備の輸送」「艦隊指揮」「災害派遣

ですが、「護衛艦」と言うのは分類としては最前線で戦う艦の事を指します(詳しくは「護衛艦隊」とは?」参照)。ですので、「災害派遣」と「輸送任務」は、ある意味おまけとして可能になっている能力です。司令部能力も充実していますが、それは「いずも」でなくても出来ることです。つまり、いずもの主任務は「対潜哨戒」にあると言えます。

対潜哨戒と言うのは、敵の潜水艦を探す任務のことです。潜水艦は海の中にいるのに、こんな巨大な艦がどうやって潜水艦を探すのかと疑問に思うかもしれません。

言わずもがなですが、いずもの最大の特徴はその圧倒的なヘリコプター搭載能力にあります。ヘリコプターと言うと人員を輸送したりするものだと思われがちですが、実はいずもが搭載するヘリコプターの大半が「対潜哨戒ヘリコプター」です。

対潜哨戒ヘリコプターって?

潜水艦乗りの戦いシリーズで細かく解説していますが、対潜哨戒ヘリというのは海中の音を拾うソナーを搭載し、魚雷や爆雷を積んで敵の潜水艦を捜索しつつ攻撃することが出来るヘリコプターです。

潜水艦というのは、戦艦がいなくなり、レーダーや人工衛星が発達した現代の海では最強とも言える兵器です。レーダーは目では見えないはるか遠くを見通しますし、衛星は世界中の海を監視しています。しかし、海中深くに潜った潜水艦を見つけることは出来ません。

強力なイージス艦ですら潜水艦に対する有効な対抗策を持っておらず、潜水艦に狙われたら高い確率で先制攻撃をうけてしまいます。

その潜水艦ですが、この対潜ヘリコプターは潜水艦にとって天敵とも言える存在で、潜水艦は海上艦艇や同じ潜水艦に対しては強力な攻撃能力を発揮しますが、航空機に対しては攻撃する術を持ちません。そもそも、浮上しないので航空機を見つけることもないですし、航空機に見つかることもないと考えられていたからなのです。

しかし、対潜ヘリがそれを大きく変えました。

対潜ヘリは海上でホバリングしながらソナーと言う海中用の集音マイクを下ろし、海中の音を探ります。さらに、海中でわざと音を出して反響した音を聞き取ることもできるので、潜水艦が止まっていても見つかります。

一番強力なのは、潜水艦がいないと思ったら素早く移動して別の場所で哨戒が出来るという点です。一度見つかったら潜水艦はヘリコプターより早く動けることはない上に反撃できないので、深く潜って見つからないことを祈るしかありません。

まさに、潜水艦キラーとも言うべき兵器です。

海上の戦闘は「海」・「海中」・「空」を中心に展開されます。そのうち、「海」や「空」に関してはイージス艦によって掌握できるのですが、海中はどうしても難しいのです(詳しくは「潜水艦を探せ!」参照)。

対抗策としては、日本の誇るそうりゅうを中核とする潜水艦隊で敵の潜水艦を迎撃する方法もありますが、潜水艦は鈍足で展開可能範囲が狭いのが欠点です。

しかし、この対潜ヘリを大量に搭載することで、いずもを中核とした艦隊は周囲に強力な対潜哨戒網を作ることができます。これによって、懸案事項だった「海中」の掌握が可能になり、イージス艦を含めた戦闘艦が思う存分戦うことができ、敵の航空機の迎撃や弾道ミサイルの撃墜などに専念できるのです。

 

後編では、「空母との違い」や「ひゅうが型護衛艦との違い」についてご説明していきます。

後編に続く