「影の銀行」シャドーバンキングの仕組み-中国以外にも存在するそのリスクを考える

シャドーバンキングのリスク

 ポジティブな捉え方をすれば、シャドーバンクとは規制に縛られない柔軟な経営を可能にする形態の銀行業といえる。
 しかし物事にはよい面ばかりあるわけではない。当然、シャドーバンクにもリスクは存在する。

 第1のリスクは、シャドーバンク内部の不透明性だ。
 シャドーバンクは全体の組織図が普通の銀行よりもはるかに複雑なことに加え、規制や調査の網を逃れるというその本来の性質上、資産の動きや保有者、関与する企業や事業体などが外部から見てかなりわかりにくくなっている。
 そして情報開示の義務も負っていないことから、たとえば融資額を増すために多額の借金をしていながら投資家にはそれが開示されないこともあり、経営の健全性が確認できないというリスクが存在する。

 第2に、セーフティーネットの不足が挙げられる。
 銀行には預金者の保護を目的とする預金保険や中央銀行からの特別融資などのセーフティーネットが存在する。いずれも預金者を保護するとともに、銀行の資金が枯渇して経営破綻するのを防ぐ機能を担っているが、シャドーバンクは既存の銀行のシステム外に存在するため、公的な保護に関しては法整備が不十分なのが現状だ。

 そして、万一破綻した際には広く経済に影響を及ぼす可能性がある点も無視できない。
 その実例としては、2007年に起こった世界金融危機がある。世界中に波及したこの事件の引き金となったサブプライムローン問題は、その根本においてシャドーバンクと同じ構造を有していたのだ。

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 サブプライムローンとは元々、信用度の低い(=返済の見込みが比較的少ない)層に対して貸し出されるローンを指す。リスクが高い分金利は高く、かつ顧客層が広いため、リスクを減らしつつサブプライムローンの貸し出しを多く行えれば銀行にとって大きな利益となる。

 その方法として証券化が用いられた。仕組みは上記とさほど変わりはなく、サブプライムローンを裏付けにした証券を投資家が買うことで資金が流れ込み、それが銀行の手に渡ってローンとして貸し出されることになっていた。銀行にすればローンを売却した時点で貸し出した資金は回収できるので事実上リスクはゼロとなり、ローンを多く貸し出せばそれだけ資金流入も増えていくという、魔法のような構造だったことだろう。
 事実2001-2006年頃までのアメリカでの宅地価格上昇と相まって、ローンの融資総額と発行された証券の価格はどんどん上昇していき、バブル状態が形成されていたのだ。

 2007年に住宅価格が下落に転じたことで、この構造は丸ごとひっくり返った。
 住宅価格下落は借りたローン以上の住宅価格値上がりを見越して借りた層や銀行のローン乱発で債務を負った低所得者層の債務不履行を増やし、定期的に入ってくるローンの返済金を裏付けにした証券の価格はそれに反比例して下がっていった。
 サブプライムローンに関わる債権は様々な金融商品に組み込まれていたため、市場全体で投資家は我先にと売却に走る。それまでサブプライムローンを組み込んだ証券で多大な利益を得ていた証券会社はここで大打撃を受け、ついに大手リーマン・ブラザーズが破産したことで世界的な金融恐慌の幕が大々的に開かれた。

 ここでも商品券の例がリーマン・ショックの理解に役立つ。商品券(債権)はギフトカード会社(リーマン・ブラザーズ)がお客に商品券を売ってお金に変えることで成り立っていたが、商品券を買ってくれるお客がいなくなってギフトカード会社が倒産したらどうなるだろう?
 商品券を集めたお店(銀行)が商品券をお金に変えたいとギフトカード会社に言っても、ギフトカード会社にお金がないので変えられないということになる。そうすると、お金に変える宛のない商品券ばかりがお店に溜まっていき、商品の仕入れができなくなったお店は倒産する。ざっくり言ってしまえば、これがリーマン・ショックの理屈だ。

 そんなことがあったにも関わらず、シャドーバンキングの規模は急速に増大している。IMFが2014年10月に発表した資料によると、シャドーバンキング関連の資産はアメリカ、イギリス、そしてユーロ圏においてそれぞれのGDP比で100%を越え、特に2007年以降急速にその割合を増やしているイギリスでは350%にまで届く。
 サブプライムローンは極端な例ながら、これだけの規模の市場が形成されていて、かつ監視の目も届かないというのは多大なリスク要因になりうる。そのため、規制の制定を求める声が少しずつ大きくなってきている。

 これまでシャドーバンクは中国の例が大きく取り沙汰されていたが、広く世界的に見ても潜在的なリスク要因だといえる。今後の規制如何ではリスクを軽減し、既存の銀行の隙間を埋めるような業態として共存していける可能性もあるだけに、その動向には注意が払われるべきだろう。