水素ステーションの整備が進められ、エコファームが新築マンションに置かれるようになり、燃料電池車「MIRAI」がトヨタ自動車から販売されるようになったこのご時世。化石燃料に変わるエコな新エネルギーとして水素エネルギーが注目されていますが、果たして水素を使った燃料電池車が主流になる時代はくるのでしょうか?
既に整備されたインフラがある電気や石油と違って、水素をエネルギーとして活用するには全く新しい設備が必要になる上、どのようにエネルギーとして活用されて行くのかという理解も進んでいません。
水素が次世代エネルギーとして受け入れられるかどうかは、水素を主燃料とする燃料電池車に掛かっていると言われても過言ではありません。そのライバルとされる電気自動車やガソリン自動車と比較しながら、水素エネルギーの可能性を探っていきたいと思います。
燃料電池車(FCV)と電気自動車(EV)が注目される理由
次世代自動車として注目されているのが、燃料電池車(FCV)と電気自動車(EV)です。
名称こそ全く違いますが、実はどちらも電気でモーターを動かしていることに変わりはありません。燃料電池車は水素によって発電した電力をモーターに送電し、電気自動車はバッテリーから電力を送電して走っているのです。ちなみに、ハイブリッドカーはモーターと内燃機関(エンジン)を組み合わせて使っている車で、ガソリン車と電気自動車の中間に位置するという考え方が正しいですね。
何故これらの自動車が注目されているかというと、日本で消費される石油の約35%が自動車によって使われているからなのです。つまり、この消費量を減らす事ができれば、日本で使われる石油消費を大幅に減らす事が出来るということになります。
また、石油は化石燃料でありいずれ枯渇してしまうもの。しかも、外国がその産出量と価格を決めていて、日本はその価格に口を出すことができません。それだけでなく、化石燃料を使えば使うほど空気が汚れ、地球温暖化が加速し、地球環境は汚染されていきます。
石油燃料を自動車や発電に使い続ける事は、百害あって一利なしです。だからこそ、石油を使わない燃料電池車と電気自動車が注目されているのですね。
燃料電池車(FCV)と電気自動車(EV)の違い
この二つの自動車について、共通点と相違点を幾つか挙げていきましょう。
- 共通点
- モーターを使い、電気を駆動力としている
- 走行時に二酸化炭素の排出が無い
- 静音性が高い
- ガソリンが要らない
- 相違点
- 電気の貯蓄方法(水素/バッテリー)
- エネルギーの充填方法(水素充填/充電)
- 出力と走行距離
大まかにはこんなものですが、実はこの「3つ相違点」が大きな課題を生んでいます。
電気の貯蓄方法では、電気自動車のバッテリーの充電が電気さえあればどこでも出来る(自宅や急速充電ステーション)のに対して、燃料電池車は水素を貯蔵している水素ステーションでしか出来ません。水素ステーションなんてまだまだ普及していないので、水素充填が出来る場所は少ないです。
ただし、燃料電池車の充填方法が圧縮水素を流し込むだけなので数分で終わるのに対し、電気自動車は急速充電で30分、自宅で数時間とかなり時間が掛かります。
それに加えて、電気自動車はバッテリー容量の関係で走行距離が短いのが欠点です。出力に関してはモーター次第ではありますが、高出力で長時間使えば電気容量の小さい電気自動車が不利になるでしょう。その一方で燃料電池車の走行距離は電気自動車の数倍なので、大きな利点です。
燃料電池車の特徴、利点と欠点
(MIRAI_トヨタ自動車)
燃料電池車は水素を使って発電して作った電気でモーターを動かして走る車です。
※関連リンク:水素の発電と燃焼は何が違う? 燃料電池と水素爆発のしくみとそのエネルギー
PEFCという方式で発電しており、常温で使用できるのが特徴です。原理についてはリンク先の別記事を参照してもらうとして、燃料電池車では水素が圧縮されたものがタンクに充填されていて、無くなったらガソリンの充填と同じようにガチャっとチューブを付けて水素充填を行うだけ。
水素は可燃性のガスですので、都市ガスやプロパンガスのように漏れて爆発する危険性があります。ただ、水素は非常に軽いので漏れ始めたら勢い良く拡散して空気中に広がっていく性質があり、少しずつ漏れていたら無害ですし、勢いよく漏れていても密閉空間などで大量に溜まらない限り引火はしません。
また、安全対策として燃料電池車ではあちこちに水素センサーが取り付けられており、水素漏れを検知したら水素タンクの元栓が閉まるようになっています。水素はすぐに広がるので都市ガスなどより検知は容易で、少なくとも普通に漏れただけで何かが起こるということはないでしょう。ガソリン漏れよりは安全です。
水素タンクも通常の事故で破損する可能性は極めて低く、水素タンクに穴が空いたとしても放っておけば水素は拡散して消えるのでガソリンタンクに孔が空くよりはマシですね。引火して爆発事故に繋がる可能性はありますが、やはりその危険性自体はガソリンとあまり変わらないでしょう。
さらに、水素は他のエネルギーと比べてもかなりのエネルギー密度があります。重量あたりのエネルギー密度はガソリン以上で、体積あたりのエネルギー密度は70MPa(燃料電池車のタンク圧力)に圧縮された場合はリチウムイオン電池の7倍以上と言われています。
ただし、水素は重たい高圧タンクに充填されるので実際の重量比は高圧タンクの重さに依存します。高圧タンクが薄ければ薄いほど、軽ければ軽いほど沢山のエネルギーを充填できるということです。
さらに、水素のエネルギー密度が高いため、電気自動車よりも航続力が長くて高出力を出しやすいという特徴があります。とはいえ、まだまだガソリン車には及びません。
そんな燃料電池車の最大の欠点でもあるのが水素の貯蔵・運搬方法で、水素を供給するには新しく水素ステーションを作らなければいけません。この水素ステーションが非常に厄介で、既存の施設を何一つ使えないため、全てを一から作らなければいけません。
PEFV方式の燃料電池は高価であることも欠点の一つです。MIRAIでも700万することから、まだまだ普及には時間がかかるでしょう。
- 利点
- 電気自動車より走行距離とパワーがある
- ガソリン車と変わらない素早く簡単な充填
- 欠点
- 水素ステーションが少ない
- 本体と水素が高価
- 水素漏れが爆発事故に繋がる可能性がある
総括すると、ガソリン車にかなり近い性能と安全性があると見て良さそうです。つまり、将来的にガソリン車に置き換わるだけの性能があるということですね。
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