21世紀の海で体当たり合戦が起こる理由と中国海警の巨大巡視船

日本の巡視船が大きい理由

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(世界最大クラスの巡視船「しきしま級」_海上保安庁

海上保安庁の巡視船は、沿岸警備を目的とする他の国の巡視船と比べるとかなり大きい傾向にあります。

これらの艦船が大きくなる理由は、「体当たりに強くなるから」では決してありません。

大きければ大きいほど、多くの人員・荷物・兵器・ヘリが搭載出来ますし、それに応じて燃料もより多く搭載して作戦行動距離が広くなるのです。つまり、沢山の荷物を搭載したいとか、遠くまで行きたいという理由で船が大きくなるわけで、「体当たり能力」は副産物にすぎません。

また、中国海警の巡視船が登場するまで世界最大の巡視船だった「しきしま」がこれほど大きくなったのも、元はヨーロッパからはるばる運ばれてくる核燃料運搬船の護衛が目的であり、長い航続距離が必要だったからなのです。ちなみに、実際にその護衛の最中に「しきしま」は環境保護団体の漁船による体当たり攻撃を受けており、船体が大きかったから損害が軽微で済んだものの小さかったらただではすまなかったでしょう。

核燃料の護衛というのは極めて特殊な事例ですが、それ以外に日本のお国柄も巡視船の巨大化に拍車をかけています。

そもそも日本は離島が多くて領海が無駄に広いため、僻地の警備には大型艦が必要になります。また、自衛隊の活動が他国の軍隊に比べて制限されており、本来であれば海軍が活動するような任務に海上保安庁が投入されているのも理由のひとつで、そういった任務に対応出来るように海上保安庁の船舶は大型化・高性能化していると言えるでしょう。

日本の巡視船と対峙した中国海警の巡視船

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(海上保安庁の船に囲まれる中国海警の船舶-尖閣諸島領有問題)

沿岸警備任務で巡視船が敵対する船舶は、違法漁船・密入国船・犯罪組織の船舶であり、他国の巡視船と敵対する事は稀です。中国の場合、昔は海警よりも先に軍が動くことも多く、漁船の取り締まりがメインだった中国海警の装備は後回しにされがちでした

そんな中国海警ですが、件の尖閣諸島の領有問題で日本の巡視船と対峙することになります。東南アジアでは漁船相手に息巻いて体当たり攻撃で何隻も漁船を沈めた中国海警ですが、ここではそうは行きません。

上の写真に写っているのは1000トン級の海上保安庁の標準的な巡視船と一回り小さな中国海警の巡視船です。尖閣諸島の領有問題当時、海上保安庁はこのクラスの船を40隻以上配備(中国は当時10隻前後)しており、更に大きな巡視船を十数隻配備していました。

写真をみると海上保安庁も中国海警もかなり近くに接近していますが、相手が民間船舶であれば接舷して臨検する事もありえるので、このくらいの距離まで接近するのはよくあることです。ただ、この距離でどちらかが体当りしようと全力で舵を切ってくればもう片方は避けられない可能性があります。

仮に海上保安庁の船が小さかったとしても実際に体当たり攻撃をしてきたとは思えませんが、「ぶつかったら沈むかもしれない」という状況は小型の船舶にとっては大きなプレッシャーであり、少しでも近づいてきたらぶつからない方向に舵を切らざるを得ないでしょう。そのため、もし海上保安庁の巡視船が小さければ、もっと距離を取って中国海警の船と対峙したはずです。

それが繰り返されれば、尖閣諸島の領海に中国海警の船が入り込んでくるということになってしまいます。それを見越した上で、中国海警は大型船舶を使ってぶつかりそうな方向へ進路を切って敵対船舶を遠ざけ、目的を達成しようとしているのですね。

ぶつかってきても引かないという姿勢を見せることは大切ですが、それはぶつかっても大丈夫な大きな船でなければ出来ません。

大型化が進む中国海警の艦船

実は、ニュースになった巨大巡視船だけではなく、2011年から数年の間に中国海警には大型の巡視船が急激に増えつつあります。

以前はほとんど無かった3000トン級・5000トン級の巡視船が増え始め、しまいには中国海軍で使われていた軍用艦(揚陸艦)を転用して中国海警に配備するということまでやってのけています。

いずれ尖閣諸島や東南アジアの領海問題でこれらの大型巡視船が使われていく事になると思いますが、そうした場合に対抗する海軍や沿岸警備の艦船は中国海警の巡視船と同クラスかそれより小さなものとなるかもしれません。

そうした場合に日米の艦船はどうやって対処していくべきなのか、考えさせられる時が来ているのかもしれませんね。