抗がん剤が高価な理由
本題に入りましょう。
結論から言うと、抗がん剤が高いのは「認可がおりない薬品が多くて開発費がかかる」ことと「市場(利用者)そのものが小さい」事が理由です。
がんの患者数は80万人を越え、死者は30万人以上。また、日本の死亡者の4人に1人ががんで死亡しているということを考えれば、市場が小さいと言われても「そんなわけはない」と言い返したくなるでしょう。しかし、その一方で糖尿病の患者は700万人以上、その多くが何年も通院して薬を使い続けます。
そうなんです。がんの市場が小さいと言われる理由の一つは、「がんの患者は薬を長く使う前に亡くなる」事が多いのです。抗がん剤の効果が不十分なのが悪いのですが、必然的に一人あたりの薬の使用量は減りますし、一錠あたりに乗る開発費も増えてしまいます。また、抗がん剤の薬は人体に有害なものも多く、がんに罹っても薬を使わずに治療するケースも多く、がんに罹ったからと言って苦しむ抗がん剤を使わない事も多いというのも市場(利用者)が狭くなってしまう要因の一つです。
がんに効果のある薬を作るだけでも一苦労なのに、仮にがんを縮小させる効果があったとしても人体への副作用が強すぎて認可が降りずに販売出来ないケースも多く、他の薬と比べて全体の開発費がかかりがちな薬品だというのも抗がん剤の価格が高騰する理由になっています。
副作用に関しては動物実験などで早期に確認できるのですが、少しでも大きな副作用があったら開発が止まる糖尿病の薬などとは違い、多少の副作用が許容される抗がん剤はそのまま開発が進んでしまう事が多いです。そして、実際に臨床試験が始まってみると思ったように効果が上がらず、副作用が強くて使えなかったとなり、開発は失敗となってしまいます。抗がん剤は効果が無いのに副作用が強い薬の代名詞として使われる事が多いですが、市場に出回っているものは「まだマシ」な薬だと言えます。
また、抗がん剤によって効果のある部位が違い、確実にがんを治療出来る薬というのが存在せず、選ばれる薬が分散してしまうのも悩みの種。全体として薬が使われていても、それが分散してしまえば結果的には薬価が上がってしまいます。
開発費がかかるのに使う人が少なく、使ってくれても患者が死んでしまう事がある。
それが抗がん剤なのです。
もちろん、命に関わるがんに対する薬であるため「高くても使う人いるため相場が上がる」というのも、抗がん剤が高くなる理由の重要な要素の一つとして挙げない訳にはいかないでしょう。
それでも抗がん剤は作られる
抗がん剤は製薬会社にとっても、患者にとっても負担の大きい薬です。
しかし、それでも抗がん剤は作られます。
それはある意味、抗がん剤は製薬会社にとっても患者にとっても夢のある薬だからです。患者にとってがんの宣告は、ある意味死の宣告にも聞こえるはずです。そんながんが治るのであればいくらでも払うという患者は多く、製薬会社としては開発費が掛かっても、効果があれば開発費を回収した上で大きな利益を出す事ができます。
抗がん剤の薬価を語る上で、その莫大な利益について議論されることが多いのですが、抗がん剤で利益を上げている製薬会社がある一方で開発に失敗して大きな赤字を出している製薬会社もある事を忘れてはいけません。また、抗がん剤で莫大な利益を上げている製薬会社も、抗がん剤を開発するまでに相当な開発費をつぎ込んでいるはずです。
抗がん剤は副作用が強く効果が曖昧で、価格が高いために医薬業界の悪として語られがちですが、製薬会社だけを責めることは出来ないでしょう。抗がん剤治療を提供する医者。それを選ぶ患者。認可を出す政府。それぞれに責任があるはずです。
抗がん剤が高いからといって安易に製薬会社を非難せず、製薬会社側の事情も少しは踏まえた上でがん治療を選ぶと良いかもしれません。