人食いバクテリアの存在をご存知でしょうか?
SF映画の様に人が人喰いバクテリアに食われて消えてなくなってしまうわけではありませんが、人喰いバクテリアは血液や細胞を破壊しながら人体を侵食し、体を腐らせ、最終的には死に至らしめます。壊死が始まった人を救うには壊死した部分を切除するしかなく、無事助かったとしても、まるでバクテリアに体の一部を食われてしまったかのように体の一部が欠損してしまうのです。
エボラウイルスが殺人ウイルスとしては有名ですが、エボラウイルスはバクテリアではありませんし、体の一部が壊死することもありません。また、エボラ出血熱が人を1週間から2週間で死に至らしめるのに対し、溶レン菌のような人食いバクテリアは数日で人を死に至らしめます。そんなエボラ出血熱以上に恐ろしい人食いバクテリアを本記事でご紹介していきます。
人食いバクテリアとは?
そもそも、何をもって人食いバクテリアと定義するのでしょうか?
厳密な定義は存在しませんが、鍵となるのは「バクテリアによって体組織の壊死(壊死性筋膜炎)」が発生することです。
壊死性筋膜炎が発症すると、壊死した部分(バクテリアが繁殖して体細胞を食い尽くした部分)からバクテリアの侵食が広がっていき、治療には壊死した部分を切除しつつ抗生物質を投与してバクテリアを退治して行くしかありません。
しかも、バクテリアに食われた(壊死した)部分は回復せず、手足であれば手足が失われますし、腹部や臀部であれば患部一体が失われます。内蔵に侵食が及んでしまった場合は、死に至る事も多いです。
熊や狼であれば人の手足が食いちぎられる事で「人喰い」となりますが、バクテリアの場合は壊死させられる事で「人喰い」となるということでしょう。
この点から人食いバクテリアを考えて見ると、壊死性筋膜炎を発症させるバクテリアは潜在的に人食いバクテリアと呼べることになります。では、壊死性筋膜炎を発生させるバクテリアには、どんなものがあるのでしょうか?
溶血性レンサ球菌
その一つが、人食いバクテリアの代名詞とも言える溶血性レンサ球菌(通称、溶レン菌)です。一般的に「人食いバクテリア」といえばこの溶レン菌を指します。
どこにでもいるバクテリアで、溶レン菌を完璧に避けて生活する事はできません。感染経路は飛沫感染で、基本的には口や陰部などの粘膜や傷口から体内に進入します。ワクチンがないため、感染予防としてはうがい手洗いで細菌を体の近くに持ち込まないようにするのが精一杯です。
人食いバクテリアとして有名なのにワクチンがないというのはお粗末な話に聞こえますが、溶レン菌には沢山のバリエーションがあり、その全てに効くワクチンを作るのはとても困難なのです。
また、溶レン菌は大きく分けて、「化膿レンサ球菌」と呼ばれるA群とストレプトコッカス・アガラクチアを中心とするB群に分けられます。B群は抵抗力が落ちた人や妊婦などしかかかりませんが、A群は健康な人でもかかる事があるので注意が必要と言えるでしょう。溶レン菌と言うと、このA群の化膿レンサ球菌を指す事が多いです。
この溶レン菌に感染すると発熱や咽頭炎を含む溶連菌感染症を引き起こしますが、必ず壊死性筋膜炎(人喰い)を始めるわけではありません。というのも、溶レン菌は常にあちこちにいる細菌であり、口からちょくちょく入り込んでいます。普段は抗体にやられて体内に入っても数が増えずに死滅しますが、抵抗力が一時的に落ちたり、一度に大量の溶レン菌が体に入り込んだりすると、一気に数を増やして感染症を発症します。
それでも、健康な人であれば悪質な風邪に近い症状で済む事が多く、症状はないのに溶レン菌が体の中にいるというケースもあるほどです。壊死性筋膜炎のような人喰いに発達することはどちらかという稀なケースと言えるでしょう。
しかし、溶レン菌は時に壊死性筋膜炎を引き起こす劇症型溶連菌感染症という数日で健康な人を死に追いやる過激な症状を引き起こします。感染経路が口や粘膜ではなく傷口や陰部を通して直接血液に入る場合に起こるケースが多いですが、溶レン菌が本気で人喰いを始めると、手足を時速数センチで壊死させていき、感染から48時間以内に人を死に追いやります。
恐ろしい話ですが、患部をじっと見ていれば体がバクテリアに食われているのが分かるのです。
劇症型溶連菌感染症を発症したらすぐに処置が必要です。傷口や陰部に強い痛みを感じ、それが広がっているのが分かったらすぐに病院に行って下さい。
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