レーダー波のノイズ解析
(AWACS _USAF)
レーダー波が拡散するというのは前回の記事でも解説しましたが、問題はステルス機ではレーダー波の大部分があらぬ方向へと跳ね返ってしまい、レーダー側には少ししか飛んでこないという点です。
しかし、注目するべきは、少しではあるものの『レーダーの反射波は飛んできている』ということです。
では、なぜせっかく返ってきた反射波をレーダーは捉えられないのでしょうか?
実は、レーダー側でせっかく返ってきた微弱な反射波を無視してしまっているからなのです。
電磁波というのはレーダーが発しているものの他にもたくさんあり、太陽からも飛んできています。しかし、それらはレーダー波に比べると極めて微弱なので、レーダーのシステムはこれらの微弱な電磁波をノイズとして無視するようにしているのです。さもなくば、誤作動だらけになってしまうでしょう。
ですが、このノイズを入念に解析すれば、ステルス機にぶつかって拡散し、わずかに返ってきた反射波を見つけ出す事ができるはずです。
いわば、人混みの中からたった一人の声を聞き取るようなものです。今までは小さな声は無視して大きくてよく聞こえる声だけを拾ってきましたが、それではステルス機は見つけられません。
反射波によって僅かに乱れたノイズを解析して自身が発したレーダー波の反射波を見つけ出し、ステルス機を見つけます。
これは既存のシステムの解析能力を高めるだけで良いので使い勝手は良いのですが、ノイズを解析すると一言で言っても大変な作業です。高い計算能力を持ったコンピューターと微弱な電波も拾う受信機が必要で、高度な技術力を持った国でしか実用化はできないでしょう。
赤外線による探知
既存のシステムをそのまま使えるのが赤外線による探知です。
赤外線は熱を発している物体から出ています。ジェット機であるステルス機が発する熱を見つけ出すのは簡単でしょう。ただ、赤外線は言ってみれば高周波レーダーよりも遥かに周波数の高い電磁波で、飛距離が圧倒的に短いです。
望遠鏡で探すよりはマシですが、太陽光で赤外線が散乱している昼間はさらに見つけにくくなるでしょう。
とは言え、赤外線による探知装置は軍用機にとっては非常にポピュラーな装備です。赤外線検知装置を搭載した多数の無人機に巡回させることで、有事に基地の周辺に接近するステルス機を早期発見することは難しくないでしょう。
技術的なハードルは低いとはいえ、コストも労力もかかりそうです。
ステルス機対策の決定打にはなりえませんね。
総合的な索敵システムが必要
ステルス機を発見・迎撃するために有効なのは、これらの方法を複合的に活用することです。
レーダー基地には低周波レーダーと高周波レーダーの両方を配置し、ノイズ解析システムも必要不可欠です。さらに、レーダー基地を補完する形で対空レーダー車両や早期警戒機を展開してネットワークで繋ぎ、相互に連携できるようにします。前線の無人機や戦闘機には精度の高い赤外線検知機を装備して、確実に迎撃できるようにすると良いでしょう。
少なくとも、低周波レーダーでステルス機の接近を感知して赤外線検知装置を搭載した戦闘機で迎撃するという戦術は実際に使われています。迎撃機には赤外線追尾式のミサイルを搭載しておけば、ステルス機の迎撃も可能です。
唯一撃墜されたステルス機であるF117攻撃機も、低周波レーダーを使って探知されたことが知られています。見えない見えないと恐れられるステルス機も、戦い方を工夫すれば発見することは出来るのです。