炎症を抑えるステロイド薬は免疫も抑制してしまう
ステロイド薬は炎症を抑える働きを持っていますが、炎症というのは実は体を守る免疫機構の働きによって起こっている症状です。つまり、体を守るために体がわざと起こしている症状であって、過剰に起こらない限り害はありません。
細胞が傷ついた時やウイルスや細菌などの異物が体の中に入り込んだ時に炎症が起こりますが、この炎症が体に対する警報として働き、警報を聞きつけた免疫細胞や修復細胞などが細胞を治したり異物を除去したりすることによって警報である炎症が収まります。
この炎症を抑えるということは免疫機構の要である警報を止めるという事に他なりません。
ステロイド以外にも炎症を抑える作用のある薬がありますが、それらは炎症の原因そのものに作用したり、炎症起こすプロセスに関与することで炎症を抑えており、抗炎症作用自体は限定的であるものの、炎症という警報装置そのものを止めているわけではありません。
しかし、ステロイドは炎症という体の警報装置そのものを解除します。これはつまり、炎症の原因や過程に関わらず「ステロイド薬はどんな炎症をも抑える事が出来る圧倒的な能力を持っている」ということを意味していますが、副作用としてステロイドは人が本来持っていた免疫能力まで落としてしまいます。
炎症抑制作用が効き過ぎて免疫抑制作用になってしまったと考えると分かりやすいです。
ステロイド薬が持つその他の副作用
ステロイド薬の副作用として前述の免疫抑制作用が知られていますが、他にも様々な副作用があります。
まず、ステロイド薬は副腎皮質ホルモンを植物や動物などの天然油脂から人工的に作りだしたものです。
そして、副腎皮質ホルモンは抗炎症作用のあるコルチゾール以外にも沢山のホルモンを含んでいます。コルチゾールだけ投与してもすぐに効き目が無くなってしまうので、コルチゾールそのものではなく、体の中で分解されて沢山のコルチゾールを作り出すホルモンを投与することで、効き目と効果が長続きするようにしているのです。
タンパク質を摂取するのに、タンパク質の固まりであるプロテインを摂らずに鶏肉を食べるのに近いかもしれません。しかし、鶏肉にビタミンが含まれている分には良いですが、ステロイド薬に不要なホルモンが入り込んでいるのは問題です。
ホルモンは体の中の伝令だと説明しました。そして、ステロイド薬は薬という形で体の外から入ってきた偽物の伝令です。一方、不要なホルモンというのは意図せず送ってしまった伝令のようなもの。炎症を起こしている細胞に「炎症を止めろ」という伝令を送るならともかく、正常に動いている細胞に関係のない伝令(ホルモン)を送ってしまった時、それは副作用として現れます。
これがステロイド薬の持つ様々な副作用の原因です。
できれば効果のあるホルモンだけを的確に送りたいところですがまだまだ技術的に難しいでしょう。ステロイド薬の場合、副作用が少ない薬は効果も低い事が多く、どちらを取るかは難しい判断になります。
ステロイド薬を正しく使う
ステロイド薬は副作用が怖い薬だと言われていますが、その反面非常に高い効果を発揮する革新的な薬でもあります。適切に使いさえすれば、大きな効果を発揮するのです。
もちろん、副作用の強い薬は使わないに越したことはありません。軽度の炎症でむやみにステロイド薬を使う必要はありません。しかし、重度の炎症は違います。
炎症は免疫機能の一部ですが、過度の炎症は体そのものを破壊します。その炎症を抑えるのが副腎皮質ホルモンであり、ステロイド薬です。極論すれば、炎症の起こしすぎて体を破壊するか、炎症を抑えすぎて感染症になるかのどちらかを選べという話。
さすがに言い過ぎなので柔らかく言い直すと、炎症を抑えるステロイド薬は医者がコントロールする事ができます。コントロール出来るステロイド薬を使うか、コントロールできなくなった炎症を放置するか、どちらが正解かは明らかですね。
薬は用法用量を守って使えば、きちんと薬になります。
薬と体の仕組みをよく理解した上で、薬の使い方を考えていきましょう。