研究所で培養された人工肉が、もうすぐ食卓にやってくる

これまでの取り組みと商品展開

培養肉製造のベースとなる筋細胞の培養は、1971年にはすでに実証されていました。その後、1990年代には幹細胞の培養技術が確立され、少数の細胞をもとに多数の細胞を作るということが現実味を帯びてきました。こうして下地が確立されたことで、2000年代に入ってから複数の大学や研究機関が食用の培養肉研究に参入することとなったのです。

一例として2003年にはハーバードメディカルスクールがカエルの幹細胞を培養した小さなステーキを作り、デモンストレーションとして実際に調理と試食を行いました。2009年には「Time誌が選ぶ2009年のイノベーションTop50」の一つに選ばれるなど、しだいに注目度を増していきます。

2013年にはマーストリヒト大学の教授が培養肉ハンバーガーを調理するというデモンストレーションを行い、世界的に広く報道されました。これ以降は研究機関だけでなく企業も培養肉の研究に参入し始めたのです。

企業の参入は培養肉の普及にとって大きな一歩といえるでしょう。なぜなら、製造コストの大幅なダウンにつながったからです。

培養肉の普及にとって、製造コストの削減は大きな課題です。2008年に作成された調査報告では、培養肉の最終的な製造コストは1トン当たり約5500ドルになると予想されていました。一方現実には、2008年時点で250グラムの牛肉を培養するには100万ドルを要したのです。2013年のデモンストレーションで作られた培養肉ハンバーガーはおよそ2800万円の価格がつけられました。とても商品展開はできない水準です。

近年になり、企業がコスト低下を主導することで状況は変わりつつあります。アメリカに本拠を置くメンフィス・ミーツ社は2016年に培養ミートボールを調理しましたが、その時のコストは1kgで約4万ドル。まだまだ高いとはいえハンバーガーよりも一桁コストが下がっています。

同社はたゆまぬコスト削減に取り組んでおり、2017年時点での製造コストは1kg当たり約5000ドルと、1年でさらに一桁のコスト削減を実現しています。

こうした急速な製造コスト低下は、培養肉の市場投入に拍車をかけると予想されます。メンフィス・ミーツ社は今後数年以内に富裕層向けに培養肉製品販売に着手する計画で、JUST社に至っては2018年内をめどに飲食店向けに製品を卸すことを目標にしています

日本で報道されることは少ない培養肉のニュースですが、世界的に見ると、実はもう目の前まで来ているのです。とはいえコストの問題が解決しても、次は消費者に受け入れられるかどうか、という次の問題が立ちはだかります。

本格的な市場投入が始まれば、否が応でも議論が巻き起こることでしょう。土地の利用法が重要な問題になってくる日本では、土地利用を減らせる培養肉はどのように受け止められるのでしょうか。