3Dプリント建築なら24時間で家が建つ、重大な社会問題を解決する未来の技術

主要な3Dプリント建築企業

今では3Dプリント建築サービスを提供している企業は複数存在しています。

Apic Cor

ロシア発の3DプリントベンチャーApic Corは、3Dプリント建築を使って安価な住宅を提供している建築会社です。2017年には24時間で家を1軒建てるというデモンストレーションでメディアの注目を集めました。

24時間で100平方メートルの家を建てると謳うその速さもさることながら、省力化と材料の利用効率でも高い水準を誇っています。

建築に必要なクレーン状の3Dプリンターは最低幅4mと比較的小型で、車両に乗せて現場まで運んでいけるサイズ。プリンターの設置はわずか30分で完了し、作業に必要な人員はわずか2名という省力化具合です。

加えて建材は無駄なく使われるため、従来の工法よりも廃棄物を40%低減できるとされています。

PassivDom

こちらはウクライナ発のスタートアップ企業PassivDom。ウクライナとアメリカ市場にて35平方メートルの家屋を販売しています。

Apic Corの提供する住宅よりも小型であるだけに、印刷に要する時間はさらに短いわずか8時間。ただし窓やドア、配管や電気系統の接続には人手が必要なので、その作業まで含めればもっと時間はかかることでしょう。

PassivDomの住宅の一番の特徴は、外部の電線や配管システムへ接続しなくてもいい自給自足型の家屋である点です。屋根には太陽光発電パネルが据え付けられ、内蔵バッテリーで蓄電も可能なほか、空気中の水分を収集するフィルターから生活・飲料水を賄うことができ、自前の下水処理システムまで組み込まれているという優れもの。もちろん普通の住宅のように外部の電線や水道へつなぐことも可能です。

民間だけでなく、公共セクターによる活用も進んできています。

2016年、シンガポールが3Dプリントで作った家を公営住宅として使おうと検討していることが報じられました。人口の約8割が公営住宅に住んでいるという現地の住宅事情を考えると、シンガポールにとってはかなり重要な公益事業に新技術を導入していることになります。

2016年から実証研究が始まり、最初のテストベッドが完成するのは2019年を目処にしています。

建築以外にもシンガポールは3Dプリント産業に注力しています。政府や産業界から10億ドルを拠出して設立されたシンガポール3Dプリントセンターでは建築だけでなく、兵器の予備部品製造や医薬品、動物用の人工骨などを3Dプリントで作成する研究が進められています。今後十数年のうちには、人工臓器の3Dプリントが実現するかもしれないという見通しもあります。

シンガポールの実証研究完了に先んじて、2018年4月、フランスで公営住宅として使われる建物が3Dプリントで建築中であると報じられました。ナント大学主導で建築されるこの建物は6月に完成の見通しで、特殊なポリマー素材を活用した建物は100年もつとされています。

3Dプリント建築が注目される理由

3Dプリント建築の売りは、住宅を安価かつ短期間で建てられるという点です。今後住宅を購入しようという人には十分な魅力になりうる点ですが、注目されている理由はそれだけではありません。

3Dプリント建築は、非常に大きな社会的課題を解決する可能性を秘めているのです。

途上国やスラムへの住宅供給

そのうち1つは、途上国やスラムへの住宅供給です。

現在世界中でスラムに住んでいる人口は8億人を超え、国連の試算では2030年までに世界中で約30億人が住宅を必要とするようになると推定されています。都市部の安全性を保ち、周辺地域の経済発展を促して不均衡をなくすためにスラムの環境改善は重要なのです。

そのため従来の建築手法よりもコストが低く、建築期間も短縮できる3Dプリント建築が注目を集めているのです。

アメリカの3Dプリント建築会社ICONは、ハイチやボリビアなどで住宅問題解決に取り組むNPO法人「New Story」と協力し、それらの国での住宅建設を始めています。3Dプリンターの導入により、従来の方法と比較して建築コストを半分以上削減するという成果を上げていることを見るに、今後ますます重要な役割を果たしていくことが予想されます。

宇宙開発

また、3Dプリント建築は宇宙開発への活用も期待されています。他の惑星に入植する際、資材を現地調達して拠点となる建築物を建てることができれば、ロケットのペイロードの節約になります。データと3Dプリンターがあれば複数の建物を建てられる3Dプリント建築はその目的にはうってつけです。

コンクリート混合材を使わず、自然に存在する土や泥を使って建物を建てる研究は現在MITで進められています。2015年にはNASAが火星探索のために現地で使うための3Dプリント住宅のデザインを募るコンテストも開かれています。

このとき賞を取ったのは、なんと氷を素材とする家屋。火星には膨大な量の氷が存在するので、現地に豊富に存在する素材を使える点がポイントになりました。

貧困地域の住宅事情改善という差し迫った課題から、宇宙開発への応用まで幅広い領域での活躍が期待される3Dプリント建築技術。今すぐに目立った成果を上げることができ、長期的な視点でも大いに活用が見込めるという、まことに希有な技術と言えるでしょう。