2018年2月から3月にかけて、海上技術安全研究所と日本船舶技術研究協会、およびヤンマーがタッグを組んで、燃料電池で動く船の実証試験を瀬戸内海で実施しました。
この燃料電池船プロジェクトは、国土交通省が2015年から進めてきたプロジェクトです。日本では2020年の東京オリンピックまでにホテルや商業施設、交通手段などでの水素エネルギー普及を目指してさまざまな取り組みが進んでいますが、その中でもとりわけ重要と位置づけられているのが燃料電池船。
船での燃料電池利用は、日本だけでなく世界でもあちこちで進められているプロジェクトです。こうした試みの影響は単に船舶の燃料を再生可能エネルギーに置き換えるだけにとどまりません。海上での燃料電池利用が十分に普及すれば、地上での燃料電池利用にもプラスの影響を及ぼすかもしれないのです。
世界的な取り組み
フランス発のエナジー・オブザーバーは、最近のクリーンエネルギープロジェクトの中で見てもかなり大胆なものです。
エナジー・オブザーバーは風力、太陽光、水素など、各種再生可能エネルギーを使って駆動する船で、燃料電池に必要な水素は海水を電気分解して補充します。生産に必要なエネルギーは、風力や太陽光発電システムなどで生産できます。
世界初となる完全クリーンエネルギー船として開発されたエナジー・オブザーバーのゴールは、なんと世界一周航行。2017年2月に出港した後、2022年までに世界50カ国を巡り、海上での燃料電池利用の有効性を実証していきます。
エナジー・オブザーバーのねらい
エナジー・オブザーバーのプロジェクトには、船舶業界の再生可能エネルギー移行を促すという最終的な目的があります。
(出典: エナジー・オブザーバー公式サイト)
グローバルなレベルでモノがやりとりされる現代社会は、船を使った海運なしには成り立ちません。社会を支える貨物船の燃料にはバンカー重油と呼ばれる燃料が使われています。バンカー重油は非常に安価で、輸送コストの削減に大きく貢献しているのですが、その代りCO2排出量が多いという難点があります。
京都議定書やパリ協定の締結が象徴するように、この20年ほどでCO2削減は世界的なムーブメントになっています。こうした動きを受け、各産業で排出量の削減に向けた動きが進んだ結果、今後数十年の間に自動車や発電所からの排出量は横ばいあるいは減少に転じると予想されています。
こうした予測がなされる一方で、船舶からの排出量は今後も増加の一途をたどると予想されています。つまり船舶業界の再生可能エネルギー移行は非常に遅れているのです。
International Maritime Organizationによれば、2050年までに船舶からのCO2排出量は250%増加すると予想されています。船からのCO2排出は、こうした排出量削減の取り組みの足かせになりうるので、早急な対策が必要なのです。
船舶の燃料電池活用は、船舶業界に影響を及ぼすだけにとどまりません。陸上での水素利用にもよい影響を及ぼす可能性があるのです。