広まりつつある対応
刑務所の人口過密へはさまざまな対策が議論されています。その中で懲役刑に代わる措置、そして司法の新しい考え方である修復的司法というシステムが注目されています。
懲役刑に代わる措置
懲役刑に代わる措置とは書いて字の如く、懲役刑以外の罰則を言い渡すこと。もっぱら軽犯罪について下されるもので、その内容は保護観察や罰金、地域奉仕などです。
例えばルワンダやモロッコ、アイルランドなどの国では、懲役刑に代わる措置の適用範囲を広げる動きが見られています。
特にアイルランドは2017年に刑務所に収監された人数が40%下がったという報告がなされていますが、その要因には罰金の不払いに対して懲役刑以外の措置を取ることを決定したということがあります。
このように刑務所の人口過密問題への対策となりうるだけでなく、再犯率の低下にも貢献している可能性が指摘されています。
例えば北アイルランドでは、後述する修復的司法と地域奉仕を組み合わせた社会実験が有効な成果を上げました。なんと期間中に社会奉仕命令に従って完了した人は再犯率が40%下がったというのです。
他にもオーストラリアでの調査では、2年以下の懲役刑に服した人と懲役刑以外の措置を受けた人とでは、後者の再犯率が31~11%下がったという結果が出ています。
文化や慣習などが異なる地域でも通用するかどうかはまだまだ議論の余地がありますが、かなり有望なデータだといえるでしょう。
修復的司法
懲役刑の実施を抑えるという世界の流れの中で、修復的司法というシステムが注目を集めています。
これは、被害者と加害者の直接的な話し合いを軸に据えた比較的新しい司法の考え方。
犯罪を単なる法律違反ととらえるのではなく、他者そのもの、あるいは自他との関係性を侵害するものだととらえるのが修復的司法の発想の出発点となります。
話し合いを通じて被害者は自分のニーズを表明し、一方で加害者はそれに応えて責任を自覚し、地域社会の関与も交えた上で犯罪によって生じた被害を積極的な姿勢で回復していく。ここで両者が和解に至り、金銭での賠償や奉仕活動といった形での償いが成立したならば、司法機関や刑務所が関与せずとも事件は解決をみるというわけです。
修復的司法は新しい考え方で、世界的な周知はまだ進んでいないのが現状です。
ただ、先述のアイルランドでの社会実験に見られるように、積極的に導入しようという動きが出てきているのも確かなこと。従来型の司法システムを補うような運用がなされれば、司法システムの負担軽減と刑務所の人口過密問題の解決に効果を発揮することが期待されています。
まとめ
このように刑務所のキャパシティオーバーという問題をきっかけとして、従来の刑事司法システム全体を見直そうという議論が世界的に広がっています。
これは単に刑務所を変えるだけにとどまりません。この記事で見てきたように、刑罰の適用方針や司法そのものについての考え方まで変えていかなければならない包括的な課題なのです。