世界が注視する食品ロスの問題 日本の対応は?

食品ロスの問題についてご存じでしょうか?

食品ロスはこの数年間で世界的に社会問題として認知されてきました。

日本でも2019年10月1日、食品ロスの削減の推進に関する法律を施行しています。これは食品ロスを社会全体で減らしていくことを目的に、一人一人の主体的な取り組みを推進し、食べることができる食品については、廃棄せずできるだけ活用することを明記することを定めた法律です。

この記事では、そもそも食品ロスとは何か、そして日本や世界における現状と対応について紹介していきます。

食品ロスとは

食品ロスと単なる食品廃棄は、実は意味が少し違います

日本における食品ロスの定義は「本来食べられるのに捨てられる食品」というもの。

それに対して食品廃棄は、食べられない部分や、腐敗するなどして食べられなくなった食品を廃棄することを指します。

つまり、捨てられる段階で食べられる状態かどうかがポイントなのです。

日本の現状

環境省発表の「わが国の食品廃棄物等・食品ロスの発生量の推計値」によれば、平成28年度の食品ロスの量は643万トン。

食品廃棄物全体では2759万トンという数字が出ており、廃棄される食品全体の実に20%以上が食べられる状態のまま捨てられていることになります。

国民1人当たりの量で言えば年間およそ50kg。これは1人が年間に消費する米の量とほぼ同じです。

そして処分もタダではありません。自治体が負担する処理費用は年間2兆円という膨大な額に。

国連が制定した持続可能な開発目標計画の中では、2030年までに世界の食品ロスを減少するという目標が定められています。

世界的に見れば、世界全体で生産された食料の30%、実に13億トンがロスされていると見積もられています。

食料生産には土地と水、エネルギーが必要です。食品ロスはそうしたリソースを無駄にすることにつながります。

また、腐敗した食品から発生するメタンガスが温暖化を促進するともいわれています。

日本国内だけでなく、世界的に見ても大きな問題だという認識ができているのです。

食品ロスへの対応

このように世界的にも重要な社会課題となっている食品ロスですが、その対応はどうなっているのでしょう?

食品ロスはそもそも、一律の対応がしづらい社会課題です。

なぜかといえば、食品ロスは生産から加工、輸送、消費を含めた流通ルート全体の各段階で起こりうるものであり、国や地域によってロスにつながる要因が異なってくるからです。

発展途上国では流通ルートのうち、収穫や輸送、貯蔵の段階で食品ロスが起こりやすい傾向にあります。これは技術や経済が未発達であることがその背景にあります。

例えばケニアでは、生産される牛乳のうち10%ほどが収穫前後に失われますが、これは冷蔵設備が不十分なため起こること。

2014年発行の国連資料によれば、牛乳用冷蔵庫の導入によりロスを15%削減できるという試算が出ています。

一方先進国は、技術や経済面が原因となる食品ロスは比較的起こりにくい傾向にあります。そのため、設備を導入するといった単純な技術支援では効果が薄いと考えられています。

その代わり、賞味期限・消費期限表示や食品流通にまつわる商慣習、また消費者の意識改革といった、法制度やシステム、人々の考え方も含めた社会そのもののあり方を変えるアプローチが必要になってきます。

日本のこれまでの取り組み

これまでの日本の取り組みは、消費者に対する啓発、そして流通システムの見直しにフォーカスしていました。

消費者に対する啓発の取り組みとしては、食品ロスそのものに対する意識の向上や、家庭でできる対策の周知などが含まれます。

この他、「食材を無駄にしないレシピ」として、消費者庁がクックパッドにレシピを公開しているなど、さまざまなメディアを通じた啓発に取り組んでいます。

商慣習の見直し

また、国内での流通の制度を見直すことでもロスの削減につながります。その代表的なものに、いわゆる3分の1ルールから2分の1ルールへの移行があります。

従来の商慣習では、生産から賞味期限までの期間を3分割し、合計で3つの期限を設けていました。

ひとつは納品期限です。

これはメーカーから商店へ納品されるべき期日であり、この期間までに納品されなければ廃棄されてしまいます。これらはお店に到着してもいない食品なので、賞味期限にはかなりの余裕があります。

もうひとつは販売期限

これはお店で販売できる期間を定めたものです。もし商品がずっと売れ残り、販売期限を過ぎてしまえばやはり廃棄されてしまいます。

このように従来の流通ルールでは、賞味期限が来るまでにロスが起こりうるタイミングが2回発生してしまいます

出典:消費者庁・食品ロス削減関係参考資料

これを見直したルールとして、2分の1ルールというルールが大手スーパーの一部に広がっています。

これは製造日と賞味期限のちょうど真ん中を納品期限と定め、販売期限をお店ごとに設定するというルールです。

こうすれば納品期限が延びるので、お店に届く前に廃棄される量が減るのです。

需要予測を活用した事例

この他、テクノロジーを組み合わせた対応策の実験も行われました。

2014年から始まった「需要予測の精度向上・共有化による省エネ物流プロジェクト」がそれです。

これは経済産業省と日本気象協会が提携したプロジェクトで、気象情報を活用した需給予測をもとに生産量調整を行い、作りすぎによる食品ロスを減らすことを目的に発足しました。

プロジェクトは豆腐メーカーを対象に3年間実施。2015年には一定の食品ロス削減効果が確認され、2016年にはロスをほぼゼロに抑えることに成功しました。

フードバンク活動支援

この他、農林水産省がフードバンクの活動支援を行ってもいます。

フードバンクとは、品質に問題がないにもかかわらず、包装の不備などで販売できなくなった食品を寄付として集め、福祉の一環として配給する活動です。


出典:セカンドハーベストジャパン 

発祥はアメリカで、日本では2000年代から広がっています。現在では日本全国80ヶ所以上で活動が行われており、食品ロス対策への効果が注目されています。

まとめ

「もったいない」という言葉は今や世界に広がる言葉です。食品ロスの問題が世界的に周知されている現代においては、「もったいない」という感覚は非常に重要でしょう。

とはいえ、食品ロスの問題は個人の心がけだけで解決できる問題でもありません。社会全体の認識やしくみ自体を変えていく必要があるもので、自治体や政府、また経済界の動向も非常に重要になってきます。

個々人にできる範囲のことを心がけ、社会に働きかける機会があればそれを活かす。こうした行動が重要になってくることでしょう。