植物の光合成と人工光合成は何が違うのか?人に有用なエネルギーを作る力

熱くて眩しいだけの光を人が扱える形のエネルギーに変える。それが光合成です。

近年ではそれを人工的に発生させられる人工光合成が注目されていますが、厳密にいうと植物の光合成とはやや性質の異なったものになります。

植物の光合成と人工光合成では何が違うのか、またどういった部分でそれは「光合成」と呼べるのか、そんな植物の光合成の仕組みについて簡単にご説明していきます。

光合成とは? 光をエネルギーに変換する力

まず、光合成と言うのは具体的にはどういう現象なのでしょう?

一般的な理科の授業では、「光と二酸化炭素と水を使って酸素や栄養素を作る」と説明されることが多いと思います。基本的にはその理解で問題ないのですが、光合成を語る上で最も重要なポイントは「光エネルギーを化学エネルギーに変換する」という事です。

例えば、植物の場合は光合成によって酸素と栄養を作っていますが、栄養と言うのはつまるところ「炭水化物」であり、炭水化物は分解することで生物エネルギーを取り出すことが出来ます。この生物エネルギーというのは、化学反応によって作られるエネルギーであり、実質的には化学エネルギーのことです。また、酸素も酸化反応に必須の物質で高い化学エネルギーを持っています。

(※関連記事‐糖質と炭水化物

酸素や炭水化物の元になった水や二酸化炭素は化学反応の結果生まれる生成物であり、化学エネルギーは殆ど持っていません。しかし、そこに光エネルギーを加えて光化学反応(光合成の一部)を起こすことで、化学エネルギーに変換する事が出来るのです。

光合成において最も重要な部分が光エネルギーから化学エネルギーに変換する能力であり、地球上にいる全ての動物が植物によって生成された化学エネルギーを利用しています。植物のこの能力がなければ、地球上で生物が繁栄する事は無かったでしょう。

 

植物の光合成、光と水から糖を作る

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(光合成の流れ_中部電力

植物の光合成では、光を化学エネルギーに変換する部分を光化学反応(明反応)と呼び、化学エネルギーを持った物質を糖という化学エネルギーが凝縮された状態に合成するのがカルビン回路(暗反応)と言います。明反応は光が必須なので「明」が付きますが、暗反応は光が必須ではないので区別して「暗」となっています。

ここで、もう少し細かくこの現象を見てみます。まず、明反応では水と光が重要な役割を果たします。

明反応: 水(2H2O) + 光 → 酸素(O2 + 水素(2H2

水素は化学反応によって熱や電気を発生させることが出来る物質で、高い化学エネルギーを持っています。酸素はこのまま放出されますが、水素は次の暗反応に使われます。また、ここでは水素を便宜上H2と水素分子のように表現していますが、実際には水素を運ぶ酵素にくっついています

暗反応: 二酸化炭素(6CO2水素(6H2 → 炭水化物(C6H12O6+酸素(3O2

ここでも酸素が生成されていますが、こっちの酸素は別の化合物の合成に使われているので放出されることはありません。また、炭水化物(C6H12O6)というのは糖(グルコース)のことで、全ての動物達のエネルギー源となります。

水素の状態でも高いエネルギーを持っているのですが、このままでは生物が扱いにくい状態であり、糖に合成する事で扱いやすい生物エネルギーとして活用されるのですね。

 

人工光合成、光と水から水素を作る

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(人工光合成_WAOサイエンスパーク

では次に、人工光合成についてご説明していきましょう。

人工光合成では明反応についてはほぼ再現出来るようになったものの、暗反応についてはまだ完璧に再現できる段階には至っていません。それでも、光エネルギーを使って化学エネルギーを持った物質を作り出す事は出来るようになっているため、十分に価値のある光合成だといえる事が出来ます。

特に、生物は水素をそのまま使うことは出来ませんが、人間の工業技術に水素を活用する事は可能であり、明反応だけでも十分有用な化学エネルギーを取り出すことが出来ると言えるでしょう。

上の図の反応を化学式にすると以下のようになります。

明反応: 水(2H2O)+光 → 酸素(O2水素イオン(4H)+電子(4e)

暗反応: 水素イオン(2H電子(2e)二酸化炭素(CO2) → ギ酸(CH2O2)

上の図は暗反応を起こすために電子と水素イオンを別々にして別の場所に送っていますが、暗反応を起こさずにそのまま水素分子(H2)を取り出す事も可能です。水素は「燃料電池の原料」として使う事も考えられており、人工光合成で効率的に生産できる様になれば、水素エネルギーを中心とした社会作りを行う上で大きな役割を果たすことになるでしょう。

また、暗反応で作れるメタノールもまた「燃料電池」として使えるほか、アルコール燃料としての応用も可能です。

人工光合成が生む大きな可能性

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(光合成の比較_産総研

植物の光合成と人工光合成を比較すると、最終的な生成物が「糖」か「水素やエタノール」かで違いがありますが、光を使って人が活用可能なエネルギーを作るという点ではどちらも共通しています。

糖は人が食べる事でエネルギーに変わりますし、水素は燃やしたり発電する事でエネルギーに変わります。

どちらも人間にとっては有用なエネルギーで、光というのも太陽によって無制限に注がれています。限りある化石燃料とは違い、光合成によって作られるエネルギーはほぼ無制限に作る事が出来ます。

今までの人類の歴史がそうだったように、これからの人類の文明も光合成が作っていくのかもしれませんね。