フェイズドアレイアンテナの原理
(フェイズドアレイアンテナの電波_radartutorial.eu)
フェイズドアレイアンテナは言ってみれば、小さなアンテナが沢山ついたアンテナです。
そして、この小さなアンテナは一つ一つ同じ周波数の電波を出しますが、そのタイミングが微妙に変えられるようになっています。微妙に変えると言っても、好き勝手なタイミングで電波を出すわけではありません。
それこそ、コンマ数秒のズレもないほど完璧なタイミングで「ずらしたり」「揃えたり」しながら電波を出しています。すると、不思議な事に上の図のように電波の波が綺麗に重なって任意の方向に飛んで行く様になります。
現象としては光が水面やガラス面で屈折(方向が変わる)するのに似ています。水やガラスで光が屈折するのは、水やガラスの内部では光の進む速度が変わり、空気中に比べて光の進む「タイミングがずれる」からです。
ガラスや水なら良いのですが、これを小さなアンテナでやるのです。一つや二つずれた程度では支障ありませんが、その他は本当に完璧に調整されたものでなくてはいけません。電子制御技術が進歩したおかげで可能になった技術です。
これの何が凄いのかというと、アンテナの向きを変えずに瞬時に電波の向きを変えることが出来るという点です。
なんてこと無い様に思えますが、一秒間に何千回というレーダー照射が可能であるということを考えると、一秒間に何千という方向に向けてレーダー波を照射できるということになります。つまり、事実上フェイズドアレイアンテナが向いている上下左右の方向全てに対してレーダー波の照射が可能です。
そして、目標が多数あったとしてもレーダーを照射する何千回の内の何回かを目標のいる特定の方向に向けて電波を絞って飛ばすだけで、目標の動きを追跡することが可能です。
つまり、広範囲を一瞬で策敵し、多数の目標を同時に追尾することができるようになるということです。
ただ、このフェイズドアレイアンテナは小さなアンテナの集合体なので非常に重く、素早く動かす事は出来ません。索敵範囲は上下左右45°~60°ずつ(正面90°~120°の範囲)なので、効果的に運用するためには4基、どんなに少なくとも3基のフェイズドアレイレーダーを別々の方角に向けて配置する必要があります。
実際、イージス艦では全部で4基のフェイズドアレイレーダーが配置されていますね。
これでも直上に若干の死角ができますが、可動式のレーダーでカバーすることはできます。
小さなアンテナを多数搭載することでより高性能になると聞くと不思議ですが、高度な電子制御技術と大量の情報を一度に処理する電算能力が必須であり、非常に高価です。イージス艦のみならず「フェイズドアレイレーダー」を本格的に運用している国は限られています。
圧倒的な対空戦闘能力
イージス艦が最強と言われるゆえんは、フェイズドアレイレーダーを駆使した圧倒的な対空戦闘能力にあります。
この能力は戦闘機だけではなくミサイルにも有効です。飛来する多数のミサイルを同時に撃墜することで敵の攻撃を防ぎつつ、ミサイルを発射した相手を攻撃する事ができます。
残念ながらレーダーは水中深くには届かないので潜水艦や魚雷に対しては普通の艦船と変わりませんが、空に関してはイージス艦の右に出るものはいないでしょう。
しかし、それは全てレーダーの性能があってこそです。このレーダーの性能が十分に生かせないステルス機相手にどれほど有効か分かりません。
現代の戦闘はレーダーを制する者が勝つということなのかもしれませんね。