飛べなくなった鳥達(3):水と共に生きる鳥(ペンギン、ガチョウ、フナガモ、など)

 「飛べなくなった鳥達」では、第一回で多くの飛べない鳥に共通する特徴を、第二回で地上の鳥を説明してきました。今回は、泳力を手に入れた鳥達である、フナガモ、ペンギン、ガチョウをピックアップしてみて行きたいと思います。

水上を走る様に泳ぐ能力を手に入れたフナガモ。
潜水能力を手に入れたペンギン。
本来は飛べる種だった雁を家禽化したガチョウ。

彼らは何故、、空を飛ぶことを捨てたのでしょう?そして、失った翼はどうなってしまったのでしょうか?

前回:「飛べなくなった鳥達(2):地上で生きる術を見つけた鳥(ダチョウ、キーウィ、ニワトリなど)

フナガモ

201409262

フナガモは飛べないカモであり、名前の由来は水面を走るように進む姿が外輪船(水車のような輪を回転させて進む船)の様に見えるからという理由があります。

 一般的なカモと同じくらいの立派な翼を持つが、胸筋が十分に発達していないため飛べない。普段は普通のカモ類と同様にヒレの様に発達した足を使い、パタパタと前後に動かし水の上を前進する。しかし、一旦危機が迫ると、足を回転させる様に動かし、飛べないものの羽ばたきなら水面を走る。

フナガモの翼は揚力を発生させられるだけの構造をしており、自重を越えるほどの揚力を生み出すことは出来ないものの身体を軽くすることは出来る。そこで、水面を蹴る足の動きと合わせて羽ばたきながら前に進めば、水面を高速で移動することが出来る。

フォークランド諸島付近で多く見られるため、外輪船の様に泳ぐ姿から英語では「Falkland Steamer Duck」と呼ばれます。Steamerとは蒸気船のことですが、初期の蒸気船は全て外輪船だったのでこの名前が付きました。

本来は飛べる種だったようですが、足の動きに加えて最低限の翼の動きを使えば水面を高速で移動でき、十分に危険を回避できるため、飛ぶ力が徐々に失われ言ったようです。同じように水面を高速で走れる上に、空も飛べる「トビフナガモ」も存在します。

カモ類は生まれてからも、しばらく飛べない時期が長く、その理由には胸骨(竜骨突起)の成長が他の種族より遅いからだと言われています。そのため、飛行能力が重要視されない地域や高い泳力を備えた種では、胸骨の必要性が薄れ、徐々に発達しなくなってしまったものと考えられています。

ペンギン

201409241

ペンギンは、 言わずと知れた潜水が出来る鳥。

分類としては、海鳥に当たるペンギンですが全く飛べません。南極などで生活する上に、冷たい海中に潜って餌を取るため、体には脂肪が付き、鳥のように細い足を持ちません。その一方で、高い潜水能力を獲得しました。

潜水可能時間は10分から20分で、魚の様にエラ呼吸が出来ない種族の中では最強の潜水哺乳類であるマッコウクジラに比べると潜水力は劣りますが、鳥類の中ではトップクラスの潜水力を持っていると言えます。

鳥類として残された特徴は嘴とその翼ですが、一部の走鳥類とは大きく違う点は、翼が泳力を得るために翼が退化したのではなく、大幅に進化した点にあります。さらに、翼を動かすための筋肉は一般的な空を飛べる鳥類以上に進化しており、翼の構造も水中では羽根がくっつき、一枚の分厚いフリッパーと言う水を掻くことに特化した構造になります。まさにペンギンは、空気より重たい水の中を飛ぶために翼が進化した鳥と言えます。

泳ぎ方も実に独特で、クジラや魚とは違って翼を使って推進力を得ています。水中を飛ぶと表されるのもこのためで、空を飛ぶ鳥が翼で空気を掻いて前に進む様に、ペンギンは翼を水を後ろに掻いて前に進むのです。翼の使い方は飛ぶ鳥と全く同じでありながら、水中を泳ぐために独自進化を遂げています。

ガチョウ

 201409245

 元は雁だったガチョウですが、家禽化されて全く飛べなくなってしまいました。

ニワトリと同じく非常に古くから家禽化されており、卵、肉、羽根、内臓に至るまで全てが人に使われます。

元々自在に空を種族だったため、羽根は綺麗で装飾品などによく使われます。ガチョウで有名なのは、無理やり食べ物を胃に流して太らせ、肝臓にフォアグラとして食用にする用途です。成長も早く、食べ物も選ばず、肉も美味なため、非常に優秀な家禽といえます。

元は陸鳥だったニワトリに、元は水鳥であるガチョウ。どちらも、カモ類に分類される鳥で、飛べなくなった経緯も比較的に似ていると言えるでしょう。

人間という自然界の覇者に飼育された鳥。必ず殺されてしまう運命とは言え、ある意味確実に種を残せる環境で育った鳥達もまた飛ぶ必要がなくなり、いつしか飛べなくなってしまうのです。

自然の盲点を突いた飛べない水鳥

水中で生きる生物、空で生きる生物、陸で生きる生物。しかし、意外と少ないのが水面で生きる生物です。

海を見ても、湖を見ても、水面にいるのは鳥だけです。水面をプカプカ浮かぶ魚(死魚は別)もいなければ、水面で生活する哺乳類も滅多にいません(ラッコなど一部を除いて)。

鳥は空を飛ぶために体が軽く、水に落ちても簡単には沈みません。そして、大きな海ならともかく、川や湖には大きな鳥を捕食する生物は少ないため、水の上に浮かんでいればそう簡単に他の動物に捕食されることはありません。

水上で生活する鳥の多くが鳥の中でもそこそこ大きな鳥であり、水中の生き物の捕食対象となることはめったにありません。生息域によっては、ワニなどの敵が存在しますが、水上にいれば少なくとも陸上の捕食者に襲われることはありません。水上で暮らすというのは、ある意味自然界の盲点を突いた選択だったと言えるでしょう。

陸で生活することを選んだ鳥類は人間の発展とともに多くが絶滅してしまいましたが、水面や水中を選んだ鳥達は走鳥類ほど絶滅はしていません。

走鳥類の生存が鳥達の奇跡であるのなら、水辺を選んだ鳥達は賢明だったといえるのかもしれません。

 【シリーズ一覧:飛ぶ鳥、飛べない鳥】