米国バージニア大学の実験で、人は退屈な状況に置かれると、そのまま退屈に耐えることより電気ショックを受ける方がマシだと考える傾向にあることがわかりました。
その傾向は男性の方がより強く、男性被験者の3分の2が何も出来ない退屈な環境に我慢できず、刺激を欲して自発的に電気ショックを受けました。女性でも四分の一が同じ行動に出ています。
退屈は痛みより大きな苦しみになる。
その他の実験でも、人が退屈を嫌い刺激を得ようとする傾向が強く存在し、剰え自らを苦痛の中に置く選択をする人まで現れるほど。あなたは何も出来無い退屈な環境に、どれくらい耐えられますか?
バージニア大学の実験
本来はネット依存やスマホ依存を調べるために始まった実験でしたが、人が思いの外退屈な時間を嫌うことが分かり、どこまで退屈を嫌うのかを調べるため、被験者を電気ショックの機材以外何もない部屋に放置し、退屈に耐えながら考え事でもしてもらう実験を行いました。
男性の三分の二、女性の四分の一が15分間の退屈に耐えられずに、自分自身に電気ショックを流しました。
電気ショックが程よい痛みだったとか、少し試してみたかったとかそう言う事ではなく、被験者たちは予め電気ショックを体験済みであり、5ドル払えば電気ショックを回避できると言われたら払うかという質問に殆どがイエスと答えています。この電気ショックがちょっとしたビリビリではなく、かなりの痛みであることが分かります。
ある意味、「15分間退屈をしのげるのであれば、5ドル払ってでも痛みという刺激を得ようとする」と言う結果が出たとも取れます。
一方、どんな人間が退屈に耐えられたのかというと、じっとして考え事をするのが好きな人や夢想が好きな人にそう言う傾向が強かったそうです。つまり、頭の中だけで刺激を得られるような人が退屈に強いということですね。
男性と女性で大きな違いが出たのは、退屈に対する耐性もあるのでしょうが、女性は夢想好きな人が多いと言うのも関係しているのかもしれません。
退屈は毒になる
今回の実験の様に、普通に生活している人が自ら進んで電気ショックを受けるなんてことはありません。
にも関わらず、人は何も出来ない環境に置かれると、積極的に苦痛でもなんでも良いから刺激を得ようとします。これは、非常に危険なことです。
イギリスの学者で、首相も務めたバートランド・ラッセルは、幸福論の中で「人類の害悪の半分は退屈を恐れるあまりに犯されたもの」と言っています。残りの半分については触れられていませんが、残りは生き残るために仕方なく・・・なのかもしれません。
その言葉通り退屈凌ぎに犯罪を犯すという人はあまりいないようにも思えますが、「退屈を凌ぐもの」や「退屈を紛らわせるもの」といえば何でしょう?
そう、娯楽です。
生活費や食べるものが必要で行われる犯罪は別ですが、「遊ぶ金欲しさの犯罪」や「嗜好品を手に入れるための犯罪」は、退屈を凌ぐための犯罪とも言えます。衣食住以外は退屈しのぎと言ってのけるのは言い過ぎのように思われますが、極論すれば生きるために必要な事以外は、全て退屈を嫌って行うものなのかもしれません。
人は退屈を凌ぐためであればなんでもします。ドラッグが退屈を凌ぐのであれば、違法ドラッグでも合法ドラッグでも何でもするでしょう。ギャンブルで退屈を凌ぎ、贅沢をするためのお金が得られるのであれば、何を捨ててもギャンブルをするのかもしれません。
しかし、それらは全てその人の人生において、害悪であり、毒となります。娯楽そのものは悪ではありませんが、娯楽に人を溺れさせる本当の毒は退屈なのかもしれません。
拘禁病、退屈さで病む心
人が強制的に退屈させられる環境のと言うのは、ほとんど全ての社会に存在しています。刑務所です。
刑務所は人を拘束し、自由を奪い、強制的に娯楽を奪います。退屈は毒となり、さらに自由が無いことで退屈を紛らわせる事ができず、退屈と言う毒が人を蝕み続けると、人は拘禁病と言う神経症にかかります。拘禁反応とも呼ばれますが、うつ病になったり、幻覚や幻聴、感情が不安定になるなど症状は様々です。
これが退屈が原因なのか自由を奪われたことに対するストレスなのかは分かりませんが、ある意味で衣食住に不自由しない刑務所で、自由を奪われる最大の弊害は退屈さでしょう。もちろん、囚人が退屈しすぎないように、読書やエクササイズなどは存在するので、刑務所が退屈で人の心を破壊するような場所とは言いきれません。
毒にも薬にもなる退屈
退屈による苦痛を分かりやすく表現するのは、子供です。
子供は退屈になると、わめき、暴れ、退屈を紛らわせるために様々な暴挙に出ます。人の親であれば、誰しも子供の「つまんないよー」と言うわめきに苦しめられたことでしょう。
今はゲームやスマホ、タブレットなどの電子端末が増え、子供がゲームでエンドレスに退屈を凌ぎ続けられるようになりました。テレビやインターネットのお陰で、子供だけではなく大人たちも退屈しない毎日を過ごせるようになっています。
しかし、過剰な退屈は毒になりますが、ほどよい退屈は薬になります。
先の実験で、退屈に強い人は「考えごとが好き」だったり、「夢想が好き」だったりすることが分かります。退屈を凌ぐ最も簡単で確実な方法は、頭の中で刺激を生む事。つまり、創造的活動です。
子供の教育に関する研究を行っている学者の調べで、一部のアーティストやライターの創造力を育んだ環境の一つに退屈さがあったことが分かっています。退屈を凌ぐために「頭を使った」事で、創造力が育まれたのです。
子供にそれを教えるのは簡単なことではありませんが、「考える習慣」や「物語を想像」する習慣は、決して害になるということはありません。
考えるきっかけを与え、ほんの数分退屈な時間を与えるだけで十分です。そうやって、何もせずに頭だけを使う「退屈な時間」というのがあっても良いのかもしれませんね。