マタニティ・ハラスメントが何故起こるのかについて詳しく迫っていく中で、特集(その1)ではマタハラで良く問題になる事例や法律について簡単にご説明しましたが、マタハラが起こる理由を知る上で最も考えなければいけないのが、企業側の視点です。
何故、企業は妊婦を差別するような扱いをするのでしょうか?
大きく分けると、「生産性の低下」や「古い社会慣習」がマタハラの大きな原因になっていますが、特集(その2)の本記事では、男性視点で労働を考え、生産性のみを優先させるが故にマタハラを常習化させる企業の特徴について触れてみます。
何故マタハラが起きるのか?
・マタハラって何? 「各種事例と関連法規」
・「社会的・文化的に古い慣習―男は外、女は家」
企業の言い分① ― 少しの負担も許容できない怠慢企業
妊娠と言えば、新しい命が生まれるめでたい出来事のはず。
しかし、それが何故か会社では疎ましい出来事の様に感じられてしまう。
何故なら、妊娠すればその女性は今まで通りに働きにくくなり、休みがちになる。
つまり、生産性が落ちるのです。
女性であれば当然妊娠の可能性があるのですが、妊娠するということは子供が出来るということです。そして、子供ができれば子育てに忙しくなるということでもあります。言ってみれば、企業からすれば妊娠と言うのは長期的に見て確実に生産性が落ちる不良人材と見なせる要素と考えることが出来てしまうのです。
そこで企業は考えます。
「じゃあ、女なんて取るな。体力もないし、結婚や妊娠で生産性が落ちるなら最初から要らない」
しかし、男女雇用機会均等法が施工され、女性と男性の立場を対等にしようと言う強烈な国内外からの圧力もあり、そうも言えなくなってきた。
実際に女性を雇ってみると、体力仕事でもない限り女性が男性より仕事が出来ないなどということはありません。むしろ、消費者の半分が女性であることを鑑みれば、女性の視点と言うのはなかなかに貴重な意見になります。
そこで企業は考えます。
「なんだ。別に女でも仕事出来るじゃん。仕事が出来なくても見た目が良ければお茶汲みやらせればいいし、何人か雇ってみよう」
少しの足しにでもなれば良いと雇ってみた結果、「妊娠で休みが欲しい」だの「体に負担の少ない仕事に移して欲しい」だの、男なら言わない文句をいうようになりました。しかも、労働基準法で産休の義務が明記されており、どんなに短く見積もっても2ヶ月。場合によっては4ヶ月近く休ませなくてはならない。
そこで企業は考えます。
「女の労働者は使えるが面倒だ。まあ、妊娠するまでだな。妊娠しながら働ける根性のあるやつだけ使ってやろう」
常に男性を基準とした労働のあり方でモノを考え、妊娠の持つ本来の意味を無視しているように思われます。
働く女性の妊娠というのは、学生の不注意での妊娠とは違い多くの場合子供を育てる能力のある女性の妊娠です。子供の将来が危ぶまれるような妊娠ではなく、本来喜ばしい事。しかし、会社の負担が増える事を理由に、面倒だからと妊娠した女性を遠ざけようとします。
考え方としては環境破壊を平気でやるような会社と同じです。
会社として、環境を守るためにコストを掛けるのは生産性の低下につながりますが、人類が住む共有財産を汚染するのは社会の一員である組織のやることではありません。
妊娠した女性に然るべき配慮をせず、遠ざけたり辞めさせたりすることは、将来を担う子供たちの育成や女性労働者の躍進を妨げる事になります。小さなコスト削減のために社会の発展を阻害するような行為であると認識するべきでしょう。
企業の言い分② ―生産性だけを求めるブラック企業
上述の企業側の負担が増えるというのと視点は似ていますが、ひたすら生産性を求めて労働者を酷使するようなブラック企業でのマタハラは更に深刻です。
言い分①の様に、負担が増えるから嫌だと言うだけでは、ブラックだとは言い切れません。単に人事担当の怠慢である可能性もあるからです。しかし、生産性が落ちることそのものを嫌がる体質を持っている企業は、かなりの確率でブラックであると言えます。
本来、会社の人材を考える場合には、仕事量以外だけではなく仕事の質も考えねばなりません。ブラック企業は質を考えず、ただ量をだけを求めます。良質な仕事をするには、社員のモチベーション管理と精神と肉体の休息が必須です。
労働者を酷使するブラック企業では、妊娠した人間は切り捨てるかギリギリまで働かせるのが常識です。派遣社員の様に切り捨ててしまえば、新しい人材を増やすだけで済みますし、出産ギリギリまで働かせて出産したらすぐに働かせれば、生産性の低下を最低限に食い止められます。
いつも人員をギリギリまで酷使しているブラック企業では産休中にカバーできる人員もいないですし、新しく人員を増やしても、産休を終えて戻ってきた時に仕事が少しでもダブつくことを嫌います。配置変更などもっての他で、ギリギリで回しているのに社員の都合で配置を変えて新しく仕事を覚えさせている余裕なんてありません。
生産性を求め、常にギリギリの人員で大量の仕事を捌こうとするブラック企業では、マタハラを防ぎようがないでしょう。
生産性を求める企業の共通点
言い分①の怠慢企業にも、言い分②のブラック企業にも言えるのが、
基本的に会社における労働者の価値が低く、社会的なモラルに欠け、業務の流動性が低いと言う点です。
まず、労働者を貴重な財産だと考えていないため、平気で労働者の不利益になるような事をします。労働者が快適に働ける環境づくりより、会社の利益が大切なのです。
次に、社会的なモラル感に欠けているため、出産や妊娠の持つ価値が分からず、女性差別的な思想を容易に受け入れてしまいます。もし、子供を作り育てると言うことの意味をしっかりと理解できているのであれば、妊婦をぞんざいに扱うことはしないでしょう。
そして、会社のシステムとして、業務や人材の流動性が低いこと。妊娠した社員が出れば会社の負担は増えます。これは間違いありません。しかし、その負担に見合う価値が社会にとってあるため、社会はその負担を組織の義務としています。問題はその負担を上手く分散する事が出来るかどうか。労働者は人であり、病気になったり、怪我をしたり、突然働けなくなることはありえます。本来は、それに対応できる組織づくりが求められるのですが、滅多にない、もしくは体調管理も業務のうちとして、全ての社員が会社に来る前提で長期的な業務計画を立てます。そこに余裕などありません。
上述の三つの問題が発生してしまう最大の問題は、出産の負担を会社が負う必要は無いと考えている事でしょう。
子供は社会の次代担う存在で、社会にとって高い価値を持っています。そのため、社会は子供を持つ女性や子供産もうとしている女性のために、最大限の配慮とサポートをしています。これは会社が社会の一部である以上、会社も担うべき負担です。
マタハラを無くすには、
まず出産を価値あるものと捉え、そのサポートをすることが社会の義務であると言う認識を持つことから始めなくてはいけないのでは無いでしょうか?
【その3に続く】