消毒がダメな理由。細菌の働きと消毒液の正しい使い方-傷の治療(後編)

以下の場合には、消毒液を使って確実に殺菌した方が良いと言えます。

 明らかに有害なウイルスや細菌が存在する様な環境で傷が出来てしまった場合には、直ちに消毒して傷を覆うことが重要でしょう。病院や重篤な感染症を持った患者と接しているような場合には気をつけなければなりません。エボラウイルスやエイズウイルスなどは、少数でも免疫細胞をくぐり抜けて感染することがあり、傷口は消毒した上ですぐに塞ぎましょう。

 野生動物などに引っかかれたり、噛まれたりした場合は消毒が必要な場合があります。野生動物は人間が抗体を持たない特殊な細菌やウイルスを飼っていることがあるため、人為的な処置が必要になります。予防接種を受けていなければ、ペットであっても危険です。どちらにせよ、すぐに病院にかかった方が良いでしょう。

 一番ありがちなのは、傷口に土などが多量に入り込んでしまっている場合などです。砂利や乾いた砂程度であれば良いのですが、水分を多く含む土壌の場合、破傷風菌などの嫌気性の細菌が多く存在しています。免疫細胞で対処出来ないこともないのですが、土壌にはかなり危険な毒素を作る細菌が潜んでおり、手段は選んでいられません。傷口に土が入り込んでしまい、処置したもののしばらくして体調を崩した場合にはすぐに病院に行くことをお勧めします。

体内の細胞、細菌と上手に付き合う

人は科学の力で様々な薬品を作り、医療の技術を高めてきました。

しかし、風邪薬や抗生物質と言っても、体内に入り込んだ細菌を殺してくれるわけではなく、単に症状を軽くしたり細菌が増えないようにするだけです。肝心なところは、体の中の免疫細胞に任せています。

消毒液は確かに細菌やウイルスを殺しますが、分別を付けて殺しているわけではありません。

免疫細胞達は人が生きていく上で、様々な細菌たちと戦い、抗体を作り、人の体を守るためのシステムやデータベースを持っています。常在菌は、人と共存していくための術を長い年月を掛けて育み、持ちつ持たれつの関係を構築してきました。

私達人間は彼らの活動を真に理解しているわけではなく、私達人間の科学力は生物達の営みを超えるほどには至っていません。

もしかしたら将来、消毒液がウイルスだけを殺すナノマシンに変わるかもしれません。しかし、残念ながら今の消毒液はそこまで便利な品物ではないのです。

結局、自分の体を守る最良の手段は、自分の体の能力を最大限に高める事です。

体の事をよく知り、体の中の細胞や細菌たちと上手く付き合って行きたいものです。