海上衝突回避規範(CUES)とは?中国などを意識した「事故」を防ぐための決まり事

誤解や勘違いから生まれる偶発的な事故を防ぐ

この規範はあくまで「事故」を防ぐ目的で作られているため、「故意」に出来ないようにするものではありません。

どういうことかというと、海上の出来事に限ったことではありませんが、威嚇したり挑発したりする目的で「これぐらいなら大丈夫だろう」と思ってやったことが、相手にとってはそうでなければ事故は起こります。

例えば、暴走族がよく公道を蛇行して走行している姿を見かけますが、暴走族にとっては「これぐらい大丈夫」な動き、「大したことのない」動きなのです。しかし、周囲の人にとっては「今にも転倒しかねない」動きであり、場合によってはハンドルを一気に切って避けようとする可能性があります。そうして、ハンドルを切った先に車やガードレールがあれば事故になるのです。

これと全く同じことが、海上で遭遇する軍隊にも言えるのです。

交通ルールには規定されていなくとも、世の中には様々な交通の「マナー」が存在しています。これはまさしく「偶発的な事故」を防ぎ、円滑な通行を可能にするもので、海上衝突回避規範(CUES)に通じるものがあるでしょう。

一人のパイロット、一人の乗員、一人の艦長。そのうちの誰かが、「これぐらいなら大丈夫」「少しからかってやろう」「ちょっとだけ威嚇しよう」なんて思って、火器管制レーダーや艦砲を照準をしてしまったら場合によっては攻撃の意図ありとみなされて反撃されてしまいます。

自衛隊や米軍のように厳しく管理された軍隊では、「ちょっとぐらいなら・・・」なんて危険な行動を取る兵士はいませんが、他の国も同じように管理されているとは限りません。モラルの低い兵士もいれば、知識のない兵士もいることでしょう。そのうちの一人が、海上の正しい「マナー」を知らず行動してしまえば、何が起こるかわかりません。

経済的に密接な繋がりのある米軍と中国が、「意図的に」戦争を起こす可能性は極めて低いです。しかし、こうした軍隊毎の認識の差や「マナー」のない行動によって致命的な勘違いが起こり、「事故」に発展し、それが紛争に繋がる可能性は無視できないレベルで高いです。

それがこの規範によって防げるという意味では、非常に意義のある規範です。

誰も戦争はしたくありませんが、誤解によって事故が発生し、それで人が死んでしまえば後には引けなくなります。ほんの小さな一歩ではありますが、こういった小さな積み重ねが戦争を防ぐことにつながっていくのでしょう。