レーダーから隠れる多彩な方法、電波から隠れるステルス技術は一つじゃない – ステルス(2)

レーダー波以外の電波を出して誤魔化す

いわゆるジャミングです。レーダー波に似た電波を広範囲に渡って出すことで、どれがレーダーの反射波なのかをわかりにくくします

ある意味では、究極の対レーダー兵器なのですが、これは味方も敵も全て巻き込んで影響を与えるので諸刃の剣。味方の影響を最小限にして行う方法もありますが、多かれ少なかれ味方のレーダー機器も影響を受けるので安易に使えるものではありません。特に、ジャミング対策が全く施されていない民間機が飛び交うようなエリアではもってのほかです。

また、電波を大量に出すジャミングを行えば、当然そのジャミング用の電波がどこからか出ていることは敵に知られてしまいます。隠密行動には向きません。敵に見つかってから使うものだと考えた方が良いでしょう。

さらに、ジャミング装置はレーダーを完全に無効化できるような便利道具ではありません。ジャミング対策にも様々な方法があり、あっさり回避される可能性もあるのです。とは言え、比較的広範囲に渡って影響をおよぼすので使い勝手の良い対策法です。

電波を乱反射させるための鉄片をばら撒く

SUFFOLK, England -- F-15E Strike Eagles launch chaffs and flares while flying toward the Royal Air Force Holbeach bombing range, Aug. 10 to practice for the upcoming Excalibur bombing competition.  Airmen from the 494th Fighter Squadron at Lakenheath, England, are participating in the competition that was developed to foster friendly relations and showcase visual bombing skills between U.S. Air Forces in Europe and NATO allies. (U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Tony R. Tolley)
(チャフ・フレア_USAF

チャフのことです。軽量で電波をよく反射するアルミが用いられますが、アルミの形状やサイズをレーダーの波長に合わせることでアルミにレーダーを乱反射させることが可能です。

小さな火薬の入れ物にアルミ片を入れて爆発・拡散させるだけで対レーダー対策になるため、あらゆる兵器に活用されています。戦闘機や車両はもちろんのこと、船舶でも煙幕にアルミ片を混ぜ込んだ対レーダー・赤外線欺瞞技術が存在します。

ジャミングなどとは違って効果範囲も狭く、効果時間も短いですし、これによってレーダーを欺瞞できる可能性は限られています。しかし、レーダーに対抗する最後の砦として長い歴史のある兵器です。

兵器の全てを非金属にする

木製兵器やプラスチック兵器はレーダーに探知される可能性が低くなります。電波以外に、磁場による探知も防げるので一石二鳥と言えるでしょう。

ただし強度の問題がある上、エンジンなどの機関部を金属以外で作るのは困難です。結局、機関部がレーダーを反射してしまってレーダーに発見される事になります。そのため、木製の飛行機ならレーダーに反応しないというわけではありません。

しかし、滑空兵器や小型兵器に応用することは可能です。例えば、実際に使われているものとして紙製やビニル製の気球兵器があります。観測機器だったり爆弾だったりするため、一部に金属が使われ、なんだかんだでレーダーにかかるのですが、普通の兵器よりはステルス性が高いです。

電波を別方向に反射させる

レーダーは金属に反射しますが、反射した電波がレーダーの発信元に届かなければ意味がありません

そもそも、レーダーというのは発射した電波が返ってきた方角と返ってくるまでの時間で距離と場所を測定しています。つまり、照射した電波が反射して帰ってきて初めて「敵を発見」したことになるのです。

そして、電波というのは電磁波であり、光や波と似たような性質を持ちます。ボールを壁に向かって斜めに投げてもボールが返ってこないように、対象に対して斜めに当たった電波は綺麗に返りません。ステルス戦闘機の角ばった独特な形状は、自身に当たった電波を相手の方向に返さないようにしています。

しかし、一本の線のようにまっすぐ進むレーザーならともかく、電波というのは多かれ少なかれ拡散して広がります。どんな当たり方をしていたとしても、多少なりとも発信元に電波は返っているのです。

実際、単に返ってきた電波が弱すぎて認識できないだけで、ある程度相手に近づければ返ってきた電波を捉えられますし、そもそも飛ばしている電波が強力であれば変な方向に飛んでいったはずの電波の一部を捉えることは可能です。

形だけ整えてもステルス機にはなりません。

電波を吸収して反射させない

ステルス技術を考える上で重要なのが電波を吸収する素材です。

これは電波吸収体と呼ばれますが、電波が当たった時に電波を反射させずに吸収してしまい、反射する電波を最小限に食い止めます。とは言え、全ての電波を完璧に吸収することは出来ません。

言ってみれば、これは黒い布のようなものです。白い布は可視光を綺麗に反射して白く見えますが、黒い布は可視光を吸収して反射する光が少ないので黒く見えています。別に黒い光を反射しているわけではありません。

レーダーの電波にも言えることで、黒い服を着ていれば夜に出歩いても見つかりにくいように、電波をあまり反射しない素材で兵器を作ってしまえばレーダーに見つかりにくくなるということです。

ただ、レーダー波と一言で言っても様々な波長・周波数のレーダー波がありますし、全てのレーダー波を吸収してしまえるような電波吸収体はありません。よく使われているレーダー波に合わせた電波吸収体を使うのが精一杯です。

まとめ

レーダーから隠れる方法は色々ありますが、結論から言えば潜るのが一番でしょう。水や土に潜れる戦闘機があれば最強ですね。

まあ、現実的ではないので置いておきますが、ステルス戦闘機や爆撃機のステルス技術は「電波の反射・吸収」に集約しています。これに関しては次回扱う予定ですが、対レーダーのステルス技術とは一筋縄に行くものではありません。

その兵器の特性・目的に合わせて適宜考えていかなければいけないもので、一つの方法だけで達成できるものではないのです。そもそも実際の作戦では、様々な種類の兵器を組み合わせて作戦を行います。

ステルス技術は進歩していますが、対レーダーのステルス技術が当たり前になってレーダーが形骸化すれば、レーダー以外の方法で敵を探知する事になるでしょう。そうなればレーダー以外の探知方法に合わせたステルス技術の開発が必要になり、また新たなステルス技術が登場するのです。

こうして考えてみると、ステルス技術も非常に奥深いでしょう。