「唾液(腺)と口の中」:炭水化物の消化や口内殺菌を行う-消化器官のしくみ(2)

「歯」は食べ物を噛み砕く器官でしたが、その中で歯を健康に保つために唾液が重要な役割を果たしていたこともわかりました。しかし、唾液と言えば忘れてはいけないのが、消化剤として、円滑剤としての働きです。

唾液はあくまで唾液腺からの分泌液ですので、消化器官と言うわけではありません。とは言え、唾液腺について語ることは唾液について語る事と同義です。ですので、本記事では唾液の働きについて扱っていきます。

消化器官のしくみシリーズ
「歯」-食べ物を噛み砕き、消化を助ける最初の器官

毎日1リットル以上分泌される液体

 唾液は一番人が使いやすい分泌液の一つと言えます。

推奨される使い方かどうかは置いておいて、
チラシやビニール袋を開ける際に指に湿り気を与えるために使うこともあれば、怪我をした時に傷口に塗りつけることもあります。口に入った異物を唾液に含めて吐き出したり、子供であれば単に飛ばして遊んでみることもあります。

人が意図して出せる分泌液は非常に少ないため、唾液ほど本来の用途以外に用いられている分泌液はないでしょう。

では、本来の目的とは一体何なのでしょう?
大きく分けると以下のようになります。

  1. 円滑な嚥下を行うための補助
  2. 口内を殺菌し、雑菌の繁殖を防ぐ
  3. 食物を消化し、吸収を助ける
  4. 口内の物理的保護や味覚の補助
  5. 歯の保護と修復

これだけ見ても、かなりの作用があることが分かります。

唾液は99.5%が水分で構成され、残りの0.5%に上述した作用を持つ物質が含まれています。非常に少ない様に思われますが、殺菌作用などを持つ物質は少量で強い効果を持つため、唾液に限らず濃度は非常に低く抑えられているものです。そもそも、血液でさえも9割が水分なので、生物が持つ液体は大体9割以上が水分なのでしょうね。

「歯の保護と修復」に関しては、「歯」についてのトピックで扱っているので割愛しますが、簡単に説明すると、唾液は虫歯菌が作る酸を中和し歯を守り、損傷した歯を再石灰化によって修復する作用を持っています。

唾液の粘性、口内保護と嚥下の補助

食べ物を噛んだり、食べ物を食べようとしたり、お腹が減った時に唾液は自然と分泌されます。

唾液を出してみれば何となく分かりますが、唾液は舌の付け根や頬奥の唾液腺から分泌されます。それが食べ物と混ざり、緩やかなまとまりとなって飲み込みやすい形状になるのです。

この時に重要になるのが唾液の粘り気、粘性です。この粘性は食べ物に混ぜ込んで、飲み込みやすくするだけではなく、人体を傷つけないような保護の役割も担っています。

ムチンと呼ばれる物質がその粘性を生み出しており、粘り気の素、粘素とも呼ばれるこの物質は、唾液以外に人体各所の粘膜で活躍しています。口内以外の全ての消化器官で見られ、鼻孔や眼球表面にも含まれているのがこの物質です。

また、唾液は保水成分としても役立っており、唾液によって喉を乾燥から保護できるようになっています。

他には、唾液が舌にまとわりつくことで、味蕾と呼ばれる味を検知する小さな器官を保護し、唾液を通して味覚成分を知覚することができるようになっていたりと、口の中のありとあらゆる器官の保護に役立ちます。

炭水化物の消化、糖類の分解

唾液には消化成分も含まれていますが、唾液は炭水化物(米やパン)だけに効く消化液です。

炭水化物とは、米やパン、蕎麦やうどんのに多く含まれ、小麦などの穀類に多く見られる栄養素です。

米やパンを噛んでいると、どんどん小さくなっていったり、甘く感じられるようになるのは唾液に含まれる「アミラーゼ」と言う酵素のお陰です。この酵素のお陰で、唾液は炭水化物に含まれる糖類を細かく分解することが出来ますが、この酵素は胃に入ってしまうとその機能を失ってしまいます。

つまり、胃で炭水化物は分解されないのです。

酵素と言うのは性質や機能によって活発に働ける環境が違い、中性で働くものもあれば酸性じゃないと働かない物もあります。そのため、歯を守るために中性に保たれている口内では、「アミラーゼ」が活発に働きますが、酸性の胃の中では働きません。そして、胃液の中に含まれる「ペプシン」と呼ばれる酵素は、酸性の胃でなければ活発に作用しないのです。

上手く役割分担されているので安心かとおもいきや、胃は非常に強い殺菌能力や消化能力を持っているにも関わらず、人間の最大の栄養源である糖類を分解する能力を持ちません。

つまり、お米は胃で消化できないので、「ご飯はよく噛んで食べなさい」と言われるのですね。